3 津波ハザードマップ 避難ビル拡大で道と温度差 浸水域想定1.3倍 市は柔軟に指定

  • 地域から問う-2023統一地方選, 特集
  • 2023年3月15日
町内会の声なども参考に進められた、苫小牧市の津波ハザードマップの改訂作業=2022年8月、光洋中学校で行われた地域説明会

  「避難の基準が道と市で違うのはあり得ない」―。9日に開かれた苫小牧市議会の特別委員会で、市の津波ハザードマップをめぐり、質問した市議が語気を強めた。2021年7月に道が公表した新しい津波浸水想定を受け、市が約2年間にわたって改訂作業を進めてきた新マップ。この日はその内容が説明されたが、一部で道と市の温度差が浮き彫りになった。避難先の一つ「津波避難ビル」の指定基準で、市は柔軟に対応する考えだが、道の見解はなかなか変わらず、指定拡大に積み残しが生じた。

   前回想定(12年)では、津波が建物にぶつかる水位上昇、せり上がりは不明だったため、建物への避難は一律で浸水の最高地点を超える3階以上だった。新マップはせり上がりの水位も細かく公表され、市はこの水位を下回れば建物2階も避難先に認める方針。津波避難ビルは新たに市営住宅や民間施設計115棟を追加し、計185棟に拡大した。避難者の収容総数も、大幅に増える見通しだ。

   一方、道営住宅についても市の新基準に基づき、道に追加指定を打診した。だが、一律3階以上とした道の方針は変わらず、現時点で新マップに反映できなかった。市危機管理室は「条件が整った段階で指定に向けて調整したい」と理解を求めたが、市議は「道民の命をどう思っているのか」と疑問を投げ掛けた。

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   新たな津波浸水想定は、三陸沖北部を震源とするマグニチュード9クラス、数百年から千年に一度とされる巨大地震に備えるため。苫小牧の浸水域は前回想定の約1・3倍、1万224ヘクタールに拡大した。第1波は地域によっては最短40分で到達し、前回と比べて9分も早まった。海から離れる「水平避難」では逃げ切れない地域が発生した。

   このような背景を踏まえて行ったマップ改訂。新しい避難の考え方として、高い場所を目指す「垂直避難」の観点も打ち出した。22年7月には道の被害想定が公表され、「市内で最大4万人が死亡、避難者は6万2000人に上る」との推計。不安を抱く住民も少なくなく、早急な対策が求められている。

   光洋町町内会は同9月、指定避難所の光洋中学校と連携し、避難訓練を同校で実施した。平日ながら町内会から約130人、生徒も合わせると500人規模の参加。同町内会長の大井正美さん(80)は「近隣の高齢者や障害者の各施設からも参加があり、住民の関心の高さを感じた」と振り返る。

   町内の一部は山側に高い建物がなく、海側の学校に向かって逃げなければならない。戸惑いを覚える住民も多く、「市営住宅の一棟でも高層化するなど、多目的な利用も検討しながら早期の対策を」と求める。ただ、ハード対策は巨額な財政措置が伴うとあり、市危機管理室は「市単独で整備するのは厳しい。道の財政支援を早く具体的に示して」と訴える。

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