12年前に見た岩手県陸前高田市の光景を忘れることはできない。ある一線から先、何もかもがなくなっていた。
11日のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次リーグ第3戦で先発した佐々木朗希投手は小学3年生だった2011年3月11日、東日本大震災の津波で同市の自宅を流され、父功太さんと祖父母を失った。「時間がたったから消えるということでは絶対にないし、苦しまれている方、悲しい思いをされた方がいっぱいいらっしゃる中で、一瞬でも元気になったり、笑ったりしてほしい」。栗山英樹監督はそう話し、佐々木投手をこの日のマウンドに送り出した。
佐々木投手は「いろいろあったけど、自分ができることをしっかりやって、きょうこのマウンドに立てたことにとても感謝した」と語った。言葉は少なくても、こん身の160キロがこれまでの道のりと一球一球に込めた願いを表していた。
昨年はサッカー・ワールドカップを見ながら、戦争が起きているさなかにサッカーに一喜一憂していていいのかと罪悪感を覚えるときがあった。WBCも、3月11日に「勝った、勝った」と喜んでいいのかと気に掛かった。でも佐々木投手を見て、迷わなくてもいいのかもしれないと思った。準々決勝は16日。(吉)