1966年に静岡県でみそ会社専務一家4人が殺害、放火された「袴田事件」で死刑が確定し、2014年の静岡地裁の再審開始決定で釈放された元従業員の袴田巌さん(87)の第2次再審請求差し戻し審で、東京高裁の大善文男裁判長は13日、再審開始を認める決定をした。
事件の約1年2カ月後に工場のみそタンクから見つかり、犯行着衣とされた「5点の衣類」について、「捜査機関による隠匿の可能性が極めて高い」とし、証拠が捏造(ねつぞう)された疑いに言及。「袴田さんを犯人と認定することは到底できない」として、検察側の主張を退けた。
最高裁が、地裁決定を覆して再審請求を棄却した東京高裁決定を取り消し、審理を差し戻していた。「5点の衣類」に付着した血痕の色調変化に争点が絞られた中、弁護側の主張が全面的に認められたことで、再審開始は決定的となった。
大善裁判長は決定で、弁護側が新証拠と主張したみそ漬け実験報告書に関し、「1年以上みそ漬けされた衣類の血痕の赤みが消失することは専門的知見によって化学的メカニズムとして合理的に推測することができる」と指摘。5点の衣類には血痕に赤みが残っていたことから、袴田さんの逮捕以前にみそ漬けされたとした確定判決は「合理的な疑いを生じさせ、犯行着衣であるという認定に重大な影響を及ぼすことは明らかだ」とした。
他の旧証拠についても検討し、「犯人性を推認させる力が限定的、または弱いものでしかなく、みそ漬け実験報告書の新証拠により証拠価値が失われるものもある」と判断。5点の衣類については「事件から相当期間経過した後に、袴田さん以外の第三者がタンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できず、事実上、捜査機関の者による可能性が極めて高い」と言及した。
その上で「新証拠が確定審で提出されていれば有罪判断に達していなかった」とし、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認定した静岡地裁決定に誤りはないと結論付けた。袴田さんの死刑と拘置の執行停止についても、袴田さんの年齢や心身の状況などから支持できるとし、地裁決定を不服とした検察側の即時抗告を棄却した。