岸田文雄首相は10日、日銀の黒田東彦総裁(78)の後任に、元日銀審議委員の経済学者、植田和男氏(71)を起用する方針を固めた。学者出身の総裁は戦後初。金融政策やマクロ経済理論に精通した植田氏の起用で、最重要課題である大規模金融緩和策の正常化を目指す。黒田総裁の任期は4月8日まで。総裁の交代は10年ぶりとなる。
3月19日に任期満了を迎える2人の副総裁の後任には氷見野良三前金融庁長官(62)と、内田真一日銀理事(60)を充てる。
日銀総裁は衆参両院の同意を得て内閣が任命する。任期は5年。政府は今月14日に人事案を国会に提示する。岸田首相は首相官邸で記者団に対し、「14日の国会への提示に向けて調整中だ」と述べた。
現在の黒田総裁は13年3月に就任。18年に再任され、在任期間は日銀総裁として最長の10年に及ぶ。大量の国債買い入れによる「異次元の金融緩和」は当初、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の中心的役割を担った。
ただ、2%の物価目標は当初目指した2年間で実現せず、マイナス金利の導入や長短金利の操作など、金融緩和の手法は中央銀行として非伝統的な領域にまで踏み込み複雑化した。大規模緩和の副作用も目立つ中で、次期総裁がどこまで円滑に正常化を進められるか、手腕が問われることになる。
植田氏は経済学者で、金融論の第一人者。1998年から2005年まで日銀の審議委員を務めた。東大教授を経て、現在は共立女子大ビジネス学部長を務めている。
日銀総裁人事を巡っては、日銀出身の雨宮正佳副総裁や中曽宏前副総裁らが有力視されていた。ただ、両氏が就任に慎重姿勢を示す中、岸田首相は金融政策の理論と実践に詳しく、国際感覚に優れた植田氏に白羽の矢を立てた。海外の中央銀行では米連邦準備制度理事会(FRB)元議長のバーナンキ氏ら、著名な経済学者がトップを務めることは珍しくない。
金融庁出身の氷見野氏は、バーゼル銀行監督委員会で事務局長を務めるなど、国際的な銀行の自己資本規制の策定などに尽力した。 内田氏は日銀で金融政策を企画・立案する企画部門が長く、黒田総裁の下で異次元金融緩和の具体的な政策推進を支えた。
植田 和男氏(うえだ・かずお)東大理卒。米マサチューセッツ工科大博士。阪大助教授などを経て1993年東大教授。98年から05年まで日銀審議委員。17年共立女子大教授。静岡県出身。
氷見野 良三氏(ひみの・りょうぞう)東大法卒。83年大蔵省(現財務省)入省。金融庁監督局銀行第一課長、金融国際審議官などを経て20年から21年まで金融庁長官。22年1月ニッセイ基礎研究所エグゼクティブ・フェロー。富山県出身。
内田 真一氏(うちだ・しんいち)東大法卒。86年日銀入行。企画局長、名古屋支店長を経て18年4月理事。22年4月再任。東京都出身。