ツルアジサイ ~冬の種子散布~

  • 支笏湖日記, 特集
  • 2023年2月10日
花びらのような部分は装飾花。小さな粒に種子が入っている

  

   写真は、雪の上にツルアジサイの花が枯れ落ちたもの(果序)です。気に掛けながら歩くと、森のあちこちに落ちています。なぜこの植物は冬の時期に果序を落とすのでしょうか。そこに意味はあるのでしょうか。

   ツルアジサイの果序を幾つか拾ってビニール袋に入れて振ってみました。すると、1ミリほどの小さなタネ(種子)が出てきました。この小さな種子には小さな翼がついていて、秋の時期には風を受けて高い樹上から風に乗ってばらまかれます。しかし、冬の時期もこの果序全体が雪上を転がることで、より遠くに種子をばらまくための重要な時期と思われます。

   ツルアジサイは、アジサイの仲間で他の樹木に体を張り付けて成長するつる性の植物です。初夏に咲く乳白色の美しい花は、4枚のがく片でできている花(装飾花)と多数の小さく目立たない生殖能力のある両性花の集合体です。この集合体が冬になってから雪上に落ちてくるのです。ドライフラワーのような果序を見ると、両性花だった部分が小さなつぼのようになっていて、その中から種子が出てきます。一方、装飾花は種子散布のために風を受ける帆の役割をしているという見方は考えすぎでしょうか。

   動物のように歩くことができない植物にとって、種子の段階が唯一移動のチャンスといえます。植物が種子をばらまくこと(種子散布)は、地球規模の気候変動などによる絶滅を避ける唯一の手段なのです。ツルアジサイは、二つの方法で種子散布を行う優秀な植物、という見方ができるのではないでしょうか。

   実はツルアジサイに限らず多くの植物が冬も種子散布をしています。皆さんも雪上散歩を楽しんでみませんか。いろいろな種子が落ちていますよ。その種子を落としたお母さん植物は誰かを探すのも楽しいかもしれませんね。

  (支笏湖ビジターセンター自然解説員 榊原茂樹)

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