私の専門は情報工学だが、この分野の技術者が有する標準的な知識や技能を問う国家試験として、経済産業省の情報処理技術者試験がある。難易度と分野により12の区分に分かれているが、高専の情報系の学生であれば、「基本情報技術者試験」や「応用情報技術者試験」を合格するくらいが望ましい。
私は授業内容を計画するに当たって、この二つの国家試験の出題内容と過去問題をいつも参考にしているが、先日少し驚いたことがあった。最近出題されたある問題が、10年以上前に私が作成した定期試験の問題と酷似していたことだ。かなり特徴のある問題なので、偶然の一致とは考えにくい。
ひょっとすると、10年以上前に私の問題を解いた教え子の一人が、国家試験の問題の作成者になったのかもしれない。もしそうであれば、地味で目立たない活躍ではあるが、卒業生が国の施策に携わったことになる。私が過去に作成した愚問を一部採用したのは、その活躍をそれとなく私に気付かせたかったのだろうか。
近年、自ら事業を立ち上げる「起業家」の育成が世間で注目されており、ビジネスコンテストなど華やかなイベントを目にするようになった。学生たちが自ら考えた技術的なアイデアを基にビジネスを展開することは大いに結構である。しかし、学生たちには、華やかな世界にだけ目を奪わるのではなく、卒業生たちの地味な活躍にも目を向けて、金銭だけでは測れない「仕事の意義」についても熟考してもらいたいと思う。
(苫小牧工業高等専門学校教授)