約1500万年前の大型類人猿の祖先から最も近縁のチンパンジーとの枝分かれが約700万年前、ホモサピエンスが出現して約20万年とされるが、この長い人類史の記憶は現在のわれわれにどれほど影響しているのだろうか。
一昨年のベストセラーである「スマホ脳」によれば、「人類の長い歴史の中で、スマホの出現により現代の一世代のみが極めて大きな変化にさらされているが、人間の脳はそれに対応しきれていない」とのことだ。確かに20万年を24時間と考えれば、膨大な情報に囲まれたこの20年は一日の終わりの10秒弱でほんの一瞬に過ぎない。
パソコン・スマホなどの画面を見る時間(スクリーンタイム)が長過ぎることに起因する心身の不調を「デジタルスクリーン症候群」というそうだ。神経が過度に刺激されることでいらいら・興奮・注意力の欠如などが引き起こされ、特に双方向性のゲームなどが危ういらしい。
一時ほどの勢いはないようだが、VR(仮想現実)ゴーグルをかぶって没入する「メタバース(仮想空間)」をはじめとして、デジタル世界の現実世界への浸食は今後一層進みそうだ。日本の小中学校では2024年度以降、デジタル教科書の配布が予定されている。一足早くデジタル化が進む米国では、皮肉なことに、あえて情報化の遅いローテク校を選ぶ親がシリコンバレー辺りに多いらしいが。
スマホの便利さのみを考えても、われわれがデジタルスクリーンにさらされる時間はこれからも増加していくだろう。止まることのないデジタル化の中で、20万年の蓄積をこの20年の経験で超えていけるのか。
分の悪い勝負のような気がする。
(苫小牧港開発社長)