どうしてここに?

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年1月28日

 穂別に来てからの”私だけのひそかな楽しみ”について話したい。

 昨年まで東京で、精神科医や大学教員に加えてメディアでの活動も長くしていた私には、いろいろな分野に友人や知り合いがいる。親しい知人には転身を伝えたが、まだ報告し切れていない人も少なくない。

 そんな知り合いの作家や役者がイベントやロケでむかわ町や穂別を訪れ、そこで私に出くわしてビックリ。その驚いた顔を見るのが”ひそかな楽しみ”というわけなのだ。

 先日は、音楽評論家のピーター・バラカンさんを驚かせた。札幌の知人が所用で穂別に来てランチをするというのでその店に出掛けると、少し離れた席にはバラカンさんがいるではないか。穂別博物館を取り上げる番組のキャスターを務めるらしい。東京で彼とトークイベントに出演した機会のある私は、席を訪れてあいさつをした。

 「お久しぶりです。私、この地で働いてるんですよ」

 いつもクールなイギリス紳士のバラカンさんの目が丸くなる。

 「えっ、それはどういうこと…。博物館の仕事に来ているということですか」

 現在は穂別診療所の常勤医をしていると説明したが、正確に伝わったかどうか。私たちは東京にいるかのように音楽関連の話題をひとことふたこと語り、そこで別れた。

 似たようなことがこれまでも数回あった。「取材旅行ですか。いつ帰るの?」と言われ、「ずっといるんです」と答えても冗談だと思われた経験もある。20年来の知人の作家が来たときには、「穂別には不思議な魅力がいっぱいです」と話すと「いちばん不思議なのはあなただよ」と言われた。

 これまでだったらそんなことを誰かに言われたら、「ずいぶん失礼だな」と腹が立ったかもしれないが、いまは違う。なんだか仕掛けたいたずらに成功した子どものような、とても愉快な気持ちになるのだ。そして、「まだ信じられない」と言っている相手に「ここは最高ですよ。また来てねー」と手を振ってその場を立ち去る。なんだか映画のヒロインになった気分である。

 これから博物館のリニューアルも始まり、穂別にはますます全国からさまざまな人がやって来るだろう。「えっ、あなたがどうしてここに?」と驚く顔がたくさん見られそう、と今から楽しみな私である。

 (むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長)

 かやま・りか 1960年札幌市生まれ。東京医科大学を卒業し、精神科医、大学教授として主に東京で活動してきたが、2022年4月からむかわ町国保穂別診療所副所長として地域医療に従事する。主な著書に「しがみつかない生き方」など。

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