東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電元会長勝俣恒久被告(82)、原子力部門トップを務めた元副社長武黒一郎(76)と同武藤栄(72)両被告の控訴審判決が18日、東京高裁であった。細田啓介裁判長は「地震前に津波が襲来する現実的な可能性の認識があったとは認められない」と判断。いずれも無罪(求刑禁錮5年)とした一審東京地裁判決を支持し、検察官役指定弁護士の控訴を棄却した。
争点が共通した株主代表訴訟では昨年7月、東京地裁が勝俣被告ら3人を含む旧経営陣4人の過失と事故との因果関係を認めて13兆円余りの損害賠償を命じており、民事裁判と判断が分かれた。
指定弁護士は、勝俣被告らが2008~09年、津波地震を予測した政府機関の「長期評価」を根拠に試算した「最大15・7メートル」の津波が襲来するなどと報告を受けながら、対策を先送りし事故を招いたと主張した。
細田裁判長は冒頭、一審が「原発の運転停止措置を講じるべき津波の予見可能性は認められない」とした点について「不合理なところはなく、相当だ」と述べた。
その上で、津波試算の根拠となった「長期評価」の信頼性について検討。津波地震の発生確率が「やや低い」と記載され、規制当局の旧原子力安全・保安院や一般防災にも取り入れられていなかったことなどから「10メートルの敷地高を超える津波が襲来するとの現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報だとは認められない」と指摘した。
原発の運転停止は「事故回避策として重い選択であり、高い予見可能性が求められる。電力事業者は漠然とした理由では止められない立場だ」と言及。防潮堤の設置、主要建屋に浸水対策を施す水密化などで防げたとする指定弁護士の訴えは「試算と実際とでは津波高、浸入方向などが大きく異なり、対策を講じても奏功したとの証明がない」として退けた。
勝俣被告らは11年3月、事故により双葉病院や施設の入院患者ら44人に避難を強いて死亡させるなどしたとして強制起訴されていた。