数年前まで、苫小牧市は通り道にすぎなかった。それが今ではコミュニティーFM局「FMとまこまい」のパーソナリティーとして同市の魅力的な人や場所を紹介するラジオ番組をつくるまでに。「長く住んでいる人には当たり前でも、外の人を感動させるものがどのまちにもある。苫小牧はそんな感動があちこちにある面白いまち」。”走れ!!!にっし~”のキャッチフレーズを掲げ、宝探しのような気持ちでまちを見詰める。
釧路市出身。札幌市のデザイン専門学校を卒業後、同市の総合広告代理店に就職した。30歳で独立し、同市内に「オフィスニシホリ」を設立。釧路に自宅を構え、行き来してきた。
苫小牧には飲食店に時々立ち寄る程度で、特に思い入れはなかった。それが5年ほど前、札幌のイベントで意気投合した苫小牧市民に会うため頻繁に訪れるようになると、「霧や気候、まちの中にある製紙工場など、釧路とオーバーラップする部分が多く、関心が芽生えた」と振り返る。
このまちともっと深く関わろうと、昨夏からコミュニティーFMの開局準備を進めるFMとまこまいでDJニッシーとして活動。飲食店や面白い人を紹介するラジオ番組を制作する。
活動を重ねるうちに、気付いたことがある。釧路も苫小牧も商業施設の郊外立地が進み、かつての中心市街地だった駅周辺で空き店舗や空きビルが急増。まちが抱える課題は似ているが、向き合う市民の姿勢が違うような気がした。
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「釧路では駅前通りの空きビルを『廃虚』と呼び、ネガティブな感情を抱くにとどまっている」が苫小牧は市民の多くが空きビルを「旧バスターミナル」や「旧エガオビル」など正式名称で呼ぶ。市民有志主催の駅周辺でのイベントも盛んで「休業施設の跡地利用検討も含め、まちを元気にする方法をみんなで前向きに考えている印象」と話す。
苫小牧市の公式キャラクター・とまチョップの柔軟な活用にも感心する。申請すると企業の商品としても無料で利用できるため、多彩なとまチョップグッズが誕生。結果として知名度が高まり、まちのシンボルとして定着したことについては、広告業界に携わるプロの視点からも「釧路や札幌にはない動き。キャラクターだけで集客できるのはすごいこと」と評価する。
5年前に苫小牧は釧路の人口を追い抜き、道内4位の人口規模となった。だからこそ、「もったいない」と感じていることもある。釧路に比べ、市民、特に若い世代の力を生かした協働のまちづくりが進んでいない点。そして、まちの魅力が市外の人に、十分に伝えられていないことだ。
釧路では、若い世代の発案で冷涼な気候を逆手に取り、寒い中で震えながらビールを飲む「ヒアガーデン」が実現。テレビなどさまざまなメディアが取り上げ、話題となっている。避暑地として夏期間に長期滞在する人も少なくない。
「苫小牧でも釧路と同じようにまちを元気にしたいと考える若い人が多く、市外の人は新鮮に感じる良い部分もたくさんある。番組を通じ、それを知ってもらいたい」。その一心で、苫小牧に足を運び続ける。(姉歯百合子)
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今年、市制75周年を迎える苫小牧市。長く暮らすうちに見逃してしまいがちなまちの魅力や可能性、課題について、さまざまな分野の人たちに聞いた。全5回。