9 苫小牧市長選 無風一転 異例尽くしの選挙戦 岩倉氏、大差で5選も 投票率は過去最低

  • この1年 2022, 特集
  • 2022年12月28日
無風から一転、現職対新人の争いとなった苫小牧市長選

  任期満了に伴う苫小牧市長選が6月12日告示、同19日投開票で行われた。構図上は現職と新人による「一騎打ち」で、岩倉博文氏(72)が5選を果たした。どのくらいの市民が実感を持って、振り返ることができるだろうか。投票率は過去最低の33・99%。市民が初めて直面するような異例尽くしの選挙だった。

   市長選は当初、無風が想定された。岩倉氏は2006年の初当選から、衆院議員を経たリーダーシップ、財政健全化など行政手腕を発揮し、保守層を基盤に各界各層の支持を集めてきた。いまだ解決できない旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」問題、反対が一部で根強いIR(カジノを含む統合型リゾート施設)誘致など課題もあるが、目立った失策は見当たらず、周囲から「5選は既定路線」の声が根強かった。

   岩倉氏が3月に出馬を正式に表明し、5選を「政治活動の集大成」と位置付けると、さらにべたなぎムードに包まれた。野党的立場の共産党、立憲民主党は候補の擁立作業を進めたが、対抗軸を示すことができず断念。誰もが岩倉氏の2期連続無投票当選を疑わない中、新人の無職西村俊寛氏(62)が突如、「無風になることに憤りを感じた」と立候補を表明した。新聞各紙が出馬を報じたのは告示前日だった。

   西村氏は過去に政治経験はなく、政党の支援も正式には受けなかった。選挙戦の準備作業もほぼ1人でこなし、告示後もポスター張りやフェイスブックの開設などに追われる日もあった。当選する可能性が限りなく薄い泡沫(ほうまつ)候補と呼ばれても不思議ではない活動内容。市民からも「選挙は本当にあるの」「西村さんって誰」などの声も聞かれたが、有権者に選択の機会を提供する「風」を吹かすことはできた。

   結果は岩倉氏が2万9523票を獲得し、西村氏の1万7412票に1万2000票余りの大差を付け、5選を果たした。岩倉氏の行政手腕や実績に対する評価を裏付けたが、一方で有権者の3分の1程度しか意思を示さず、無名の新人が結果として批判票の受け皿となった。政治的立ち位置による「反対のための反対」票も含まれるが、エガオ問題に代表される停滞感をはじめ、多選の弊害を指摘する声もあった。

   岩倉市長自らが「最後のチャレンジ」と称する5期目は早くも半年がたった。長引く新型コロナウイルス感染拡大や物価高騰などの課題に対応しながら、エガオ問題は24年度に解体着手する方針を示し、脱炭素社会の実現へまちぐるみで機運を高めるなど、積み残した課題の解決や次世代につなぐ施策の構築を急ぐ。残された任期を死に体としないためにも、苫小牧の可能性をさらに引き出し、迅速に成果を出し続ける宿命と向き合う。

  (金子勝俊)

  (終わり)

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