高齢者が西部劇の衣装を着て体を張った銃撃戦を演じる。会話劇が一転、歌に変わり、群舞が始まる―。11月27日に73歳で死去した映画監督の崔洋一さんをしのび、苫小牧市内で12月4日に開かれた追悼上映会。崔さんの応援を得て、むかわ町穂別の高齢者たちが作った映画第4作「赤い夕陽の爺yulie(ジュリー)」が上映され、見ながら撮影当時を思い返した。
今から12年前だ。本社から胆振東部支局に転勤した。その数日前に本作がクランクインし、取材で穂別の撮影現場に通うたび、崔さんをよく見掛けた。時間があると、気さくに取材にも応じてくれた。
映画「血と骨」で日本アカデミー最優秀監督賞を受賞した崔さんが、現場では「助監督」を名乗り、駆け回っていた姿が印象に残っている。真剣だからこそ、出演者やスタッフが素人でも、時に厳しい言葉を飛ばす。しかし、現場に萎縮はなかった。年の功なのか、高齢者たちが失敗も見事に冗談のネタに変え、崔さんを笑わせてしまうからだ。
そんな撮影当時の写真が飾られた上映会場に集まった穂別の人たちが話題にしたのは、主役のジュリーと悪役のボスが対決するクライマックス。撮影は過酷だった。出演者は当時70、80代。体が思うように動かず、何度やっても、双方がピストルを出すタイミングが合わない。ワンシーンに数時間もかかり、見守っていたスタッフの中には「そこまでしなくても」と泣きだす人もいた。
穂別の映画作りには「町のこし」の意味がある、と全5作の脚本を手掛けた斉藤征義さん(故人)から以前聞いた。いずれも穂別史をベースに骨太のドラマを描いた。出演した高齢者の半数以上がこの世を去ったが、スクリーンには、生き生きと躍動する高齢者たちの姿があった。
(河村俊之)