先日、体の広範囲に粘着剤が付着したスズメ(スズメ目スズメ科)がウトナイ湖野生鳥獣保護センターに搬入されました。ある倉庫内で、ネズミ捕獲のために仕掛けた粘着シートにくっついてしまったとのこと。搬入時にはすでにスズメは粘着シートから取り外されていましたが、その体にはまだたくさんの粘着剤が付着していました。腹部の羽毛は粘着剤で固まり、皮膚が露出している箇所もありました。また、左右の翼も先端でくっついており、翼を広げるどころか、身動きさえままならない状態でした。
このように、本来ネズミを捕獲するための粘着シートに、野鳥がくっついてしまう事故は時折発生します。採餌などで地面をよく利用する種に被害が多く見受けられますが、この事故の最大の特徴は、死に直結する可能性がある、ということです。これまで当センターに粘着シートで保護された事例のおよそ半数は救命に至りませんでした。
一見、粘着剤を取り外せばすぐに回復するイメージを持たれるかもしれませんが、粘着剤はかなり強力で、鳥類の体温維持に最も重要な羽毛にダメージを与えてしまいます。粘着剤でべたべたになった羽毛は機能を失い、体温を保つことができません。そして外気温が低ければたちまち低体温に。また鳥もパニックを起こし暴れてしまうため、体力消耗は加速し、死亡するケースも少なくはないのです。
このスズメも、予断を許さない状況でした。広範囲に付着した粘着剤は、一度に除去を行うと個体にかなりの負荷がかかるため、保温をし、容体を確認しながら2~3日かけて処置を行いました。幸い、自ら餌もよく食べ、少々羽毛は失ったものの十分な飛翔力も戻り、保護から5日後、自然界へ力強く羽ばたいていきました。
今回はなんとかリリースとなりましたが、スズメの発見があと半日でも遅れていたら、どうなっていたことでしょうか。
野鳥の命を左右することもある粘着シート。設置の際は、その場所に野鳥が出入りする可能性があるか、改めて判断いただけたらと思います。そして、もしも野鳥が粘着シートについてしまった場合は、迅速な対応が必須になります。まずは当センターへご相談いただけたらと思います。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)