「トイレをめぐる文化摩擦」

  • 内山安雄の取材ノート, 特集
  • 2022年10月28日

 まだ海外旅行がしにくいようだ。そんな時期なので、旅そのものではなく、私が聞いた海外暮らしにまつわる面白い話をしよう。

 インドネシアに駐在する商社マンの友だちがあきれ顔でいう。ちょっと以前の話ではあるが……。

 「引っ越し先でのトイレの改装をうちの使用人にやらせたんだけど、あまりの間抜けさに怒るよりも笑っちゃいましたよ」

 我(わ)が友人は、雇って間もない使用人にトイレットペーパーのホルダーを壁に取り付けるように指示した。

 「すると奴(やっこ)さん、どこに取り付けたと思いますか? 他でもない、トイレのドアの外側ですよ! トイレの中じゃないんです」

 友人は信じられない思いで、そんなところに取り付けてどうやってトイレットペーパーを使うのか、とうんざりしてみせた。

 するとその使用人はどうしたか? ドアの外側がダメならということで、今度はドアの内側にホルダーを打ちつけた。そこまではいい。だが、問題なのは取り付け位置である。

 なんと便器から数メートルも離れたところではないか。

 「あのね、お前さん、ふざけてるわけ? ちゃんと便器のそばに取り付けなさいよ」

 そう指示したところ、確かに設置場所が便器に近づくには近づいた。しかし、なのだ。便器のはるか上方、2メートル近い高さにホルダーが張りついているのだ。

 「お前さんの頭の中、どうなってるわけ? ちょっとバカっぽくない?」

 だが、この使用人とちゃんと話をしてみれば、おバカだなんていえないことがわかってくる。

 インドネシア人の彼はイスラム教徒である。よって宗教的な戒律に従って、用を足したあと、お尻まわりを左手を使って水で丁寧に洗い清める。つまり彼にはトイレットペーパーを使うという習慣がまったくない。

 その使用人はトイレットペーパーのホルダーを扱った経験がなかったので、いったいどこに設置していいものやら、見当もつかなかった。でもって、とんでもなくトンチンカンな場所に取り付けてしまったというわけなのだ。

 こういった文化や習慣の違いからくる誤解というのは、身近なところでまだまだ他にもあるのではないだろうか。だから世界は広い、だから世界は面白いのかな。

 ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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