立憲民主党の野田佳彦元首相は25日午後の衆院本会議で、参院選遊説中に銃撃されて死去した安倍晋三元首相に対する追悼演説に臨んだ。野田氏は国会で論戦を交わした安倍氏を「手ごわい論敵」「仇(かたき)のような政敵」と評しつつ、「再戦を挑むべき相手はもうこの議場には現れない」と故人をしのんだ。
野田氏は首相当時の2012年11月、野党自民党総裁だった安倍氏との党首討論で衆院解散を宣言。翌月の衆院選に敗れ政権を明け渡した。野田氏は「あなたの少し驚いたような表情。その後の丁々発止。それら一瞬一瞬を忘れることができない」と振り返った上で、「再びこの議場であなたと言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散る真剣勝負を戦いたかった」「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」と振り絞るように語り掛けた。
演説では、長期政権を築き評価の割れる安倍政権について「安倍晋三とはいったい何者であったのか。そうした『問い』だけが中ぶらりんの状態のまま、日本中をこだましている。その『答え』は歴史の審判に委ねるしかない」と指摘。「そうであったとしても、私は問い続けたい。あなたの命を奪った暴力に打ち勝つ力は言葉にのみ宿るからだ」と力説した。
衆院選に敗北し下野した野田氏は、新旧首相が顔を合わせる皇居での親任式の際、安倍氏から「自分は5年で返り咲いた。あなたにも、いずれそういう日がやってきますよ」と励まされた逸話を披露。17年1月に首相公邸で安倍氏とひそかに会い、当時の天皇陛下退位に向けた環境整備について「腹を割ったざっくばらんな議論」に及んだことも明かした。
衆院本会議の傍聴席には安倍氏の遺影を抱えた昭恵夫人が演説に耳を傾けた。この後、野田氏は「心からの弔意と敬意を表する」と記者団に語った。
首相経験者の追悼演説は、野党の党首級が行うのが慣例。2000年の小渕恵三元首相に対する社民党の村山富市元首相以来となる。