穂別に来てから、「人は自然の中で生きてるんだな」と思うことが多くなった。診察室では、「もう寒くなったね。ストーブつけてる?」「暗くなる時間が早いから次の診察は午前中に来ようかな」など、天候や季節に関係した話題がよく出る。
東京にいると、極端に言えば「夏も冬も、朝も夜もない生活」になりがちだ。冷暖房や照明で室内の環境は一定、24時間営業のスーパーや飲食店も少なくないので、切れ目なしに仕事をしてしまうこともある。忙しい患者さんに対応するため、「受付は午後9時まで」「日曜も診療してます」などとしているクリニックも目に付く。私自身、夜10時すぎまで大学で会議や授業の準備、それから駅前のお店でカレーを食べて帰宅、というのが普通だった。かつて、「24時間戦えますか」というCMのフレーズが話題になった栄養ドリンクがあったが、まさにそんな感じ。
でも、そんな「24時間生活」が人間の体に与える悪影響は大きい。睡眠不足、不規則な食事から来る体重変動、腰痛や頭痛、それらから生じる高血圧や糖尿病、自律神経の乱れがメンタル不調につながることもある。
そう考えれば、寒さを感じて「今年も冬が来るねえ」と季節をしっかり意識し、「早く暗くなるから布団に入るのも早めにしよう」と自然に合わせて生活リズムを変える穂別の人たちは、ずっと健康的なように思える。もちろん、冬の厳しさはしんどいかもしれないが、だからこそ春が訪れたときの喜びもひとしおだ。「いまって夏だっけ? え、もう年の瀬なの? 全然、実感がないな」と思いながら暮らす都会の人たちが、ちょっとかわいそうに思えてくる。
さて、今年は穂別で過ごす初めての冬だ。患者さんたちからは、「先生、大丈夫? 甘く見てると大変だよ」と脅かされている。そう言われるとちょっと心配になりながらも、逆に「いやいや、私だってそんなに弱くはないのよ。元気に冬を乗り越えてみせるから」とファイトがわいてくる。
皆さん、これからこの連載で私が何を書くことになるか。「穂別のスキー場やスケート場で冬を楽しんでます!」となるか、それとも「やっぱりこの寒さには耐えられません」と泣き言を言うか。ちょっと楽しみにしていてください。
(むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長)