▽最後の稲刈り
9月中旬から下旬にかけて、東胆振は稲刈りシーズン。秋空の爽やかな9月末日、安平町の遠浅小学校から約3キロ離れた早来新栄の田んぼでは、児童たちが元気いっぱいに収穫作業を進めていた。上級生が下級生に鎌の使い方や稲の束ね方をアドバイスし、学年の垣根を越えて仲良く作業に励んでいた。
来春閉校するため、同校で行う稲刈りはこれが最後。5年生の森山優月君(10)は「農家が減っていると言われている中で、こんなに広い田んぼを持っていて大変だ」と話した。農作業体験を通じ、改めて米作り農家の苦労を感じたという。
▽保護者が発案
地域の田んぼを使って行う遠浅小の本格的な米作り体験は、30年ほど前に始まった。当時、わが子を同校に通わせていた地元農家の阿部修一さん(62)が、教職員との飲食の席で「もうちょっと本格的にやらないか?」と話を持ち掛けたのがきっかけ。一気に話が進み、米作りのフィールドがこぢんまりとした校庭の一部から、広々とした田んぼへ移った。
始めた当初、児童らはもちろん、教職員の動きもぎこちなく、”地域先生”の阿部さんいわく「苗を植えた後、稲を刈った後の田んぼはぐっちゃぐちゃだった」。しかし、指導を受けるうちに要領を会得。児童は上級生になるにつれて上達し、古くから継承されてきた手作業を下級生に伝えていく流れが確立した。「新しく赴任してきた先生方にも子どもが教えるようになった」と懐かしそうに話す。
▽受け継がれた伝統
町内では、米作り体験を5年生の授業で行う小学校が多いが、同校は全学年の総合学習とし、地域ぐるみの行事にしている。春の田植えに始まり、肥料まきや草取りで地域の協力を得ており、近年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で見送っているが、収穫したもち米で餅つき大会を開催し、あんこ餅やきな粉餅にして世話になった住民らに振る舞ってきた。自分たちの手で育てた米をみんなで食べるまで、全校挙げて行う「食育」が学校の伝統になっていた。
長年同校に田んぼの一部を提供し続けてきた阿部さんは、地域先生としての役目を終えるが、伝統が受け継がれてきたことで、今年は孫が6年生になって米作りに携わった。「本当は途中で別の人に頼もうと思っていたんだけど、子どもが作業し、やがて孫もするようになって…。まさかこんなに長く続けることになるとはね」―。そう言って表情を和らげた。