第2部(3) 文化・スポーツ振興に貢献 名画に触れる貴重な機会

7、8月に苫小牧市美術博物館で開かれた特別展。世界的な名画などを入場無料で公開した

  「世界的な名画を地方で、しかも無料で鑑賞できる機会は本当に貴重。全国的にも珍しい取り組み」。苫小牧市美術博物館の美術担当学芸員、細矢久人さん(42)はそう説明する。

   トヨタ自動車北海道の創業30周年記念事業で7、8月、同館と共催した特別展は入場無料で、延べ7432人が鑑賞した。ウィーンの巨匠グスタフ・クリムトの「黄金の騎士」など誰もが知る作品を並べ、産業と市民生活の営みで結実した芸術について考察。苫小牧市とトヨタ北の関係性に通じる重厚な企画となり、「企業の力がなければできない」と強調する。

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   トヨタ北による名画などの展示は現在、5年に1度の恒例行事となっている。契機は創業10周年の2002年。苫小牧市民文化芸術振興条例制定記念事業を兼ねて、トヨタ自動車(愛知県)所蔵の名画を道内で初めて展示した。ルノワールの「少女像」、モネの「睡蓮」など印象画家の代表作を飾り、訪れた市民から「これは本物なの?」などと驚きの声も上がった。大好評に応えて04年にも絵画展を催し、その後は地域に感謝の気持ちを込めて、5年ごとの記念事業として定着している。

   ただ、12年までは市博物館(当時)での展示で、「苫小牧市に美術館を実現する会」の副会長を務めた松本紘昌さん(77)は、「照明や室温、湿度を考えると、少しは展示できても、一流の絵を飾る環境ではなかった」と振り返る。09年の同会発足から署名活動や講演会など熱心に活動し、13年7月の市美術博物館リニューアルオープンにつなげたが、「トヨタ北と出光が『本物』を触れさせ続けてくれたおかげ。美術館を造る動きにつながった」と感謝する。

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   トヨタ北は地域に根差した活動の一環で、芸術、文化を支援するメセナ活動はもちろん、スポーツ振興も積極的に展開してきた。中でもアイスホッケーとの関わりは歴史が深く、1998年から続く苫小牧市とカナダ・ケンブリッジ市の中学生によるアイスホッケー交流試合は、トヨタ北の好調な生産活動がきっかけとなった。カナダのトヨタ自動車子会社の生産車両に、トヨタ北の自動変速機(AT)搭載が決まった縁で両市、両企業が連携して交流会を開き、その後、毎年の相互訪問事業として根付いた。2年前からコロナ禍で中止しているが、再開を待ち望む声は多い。

   2000年からは地元の販売店各社、豊田通商北海道支店と協力し、女子チーム「トヨタシグナス」を後援。押しも押されもせぬ強豪チームに成長し、今年2月の北京五輪では選手5人が女子日本代表スマイルジャパンに選出された。元副社長で北海道アイスホッケー連盟会長も務めた石橋弘次さん(76)は「地域になくてはならない会社であるため、苫小牧のために、北海道のために、どうすればいいか考えることは基本。それで地元に親しまれ、信頼されているのであれば、うれしい」。長年にわたる「企業市民」としての努力が、市内のあらゆる分野に影響を及ぼしている。

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