残念なことではありますが、釣り針・釣り糸による事故が後を絶ちません。これは、釣りで使用された釣り針や釣り糸が適切に処理されないことにより、主に海辺や川辺などに生息する水鳥たちが被害に遭うもので、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターには毎年、この事故による傷病鳥が搬入されています。
最近も、オオハクチョウ(カモ目カモ科)とオオセグロカモメ(チドリ目チドリ科)が立て続けに保護されました。
オオハクチョウは、市内を流れる川の岸辺で、翼から釣り糸が垂れていると市民からの通報により、保護されました。当センターに搬入されたオオハクチョウの翼からは、確かに釣り糸が垂れ下がっていました。糸をたどってみると、翼角(よくかく:手首の骨のあたり)に小さな釣り針が刺さっていました。直ちにこれを除去し、患部を消毒。幸いにして軽傷だったこともあり、すぐにリリースとなりました。
続いて搬入されたオオセグロカモメは、意外にも、海や川ではなく住宅地内で保護されました。まだ今年ふ化したばかりの幼鳥で、その衰弱ぶりからしばらくの間、餌を食べられなかったことが推測されました。それもそのはず、カモメの舌には、痕がしっかり残るほどに釣り糸が巻き付いており、すでに舌の一部は化膿(かのう)し、異臭を放ち、餌を食べられる状態ではありませんでした。また、右の翼の付け根には大きな釣り針が刺さっており、針の先は皮膚を貫通していました。かえしの付いていた針だったため、やや難航したものの、無事に取り除くことができ、傷口からの感染を防ぐための消毒と抗生剤投与を行った後、リリースとなりました。
今回の2症例もなんとかリリースに至ったものの、釣り針・釣り糸による被害は今も続いているのが現状です。改めてではありますが、釣りをする際は、釣り針・釣り糸を捨てないことはもちろんですが、うっかり落としてしまわぬよう、また、釣りをされない方も、落ちている釣り針・釣り糸を見掛けたら、どうかけがをなさらぬよう拾っていただけると幸いです。私たちの気が付かない場所で、釣り針・釣り糸で苦しむ生きものたちは、まだまだ多く存在しているのです。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)