第1部 (5) 「カイゼン」で成果とやる気 息づくものづくりの伝統

「カイゼンはトヨタの所作。安全に、確実に、良いものを作る」と今井常務
「カイゼンはトヨタの所作。安全に、確実に、良いものを作る」と今井常務
動力を使わないユニークな「からくり」。生産性の向上などに活用している
動力を使わないユニークな「からくり」。生産性の向上などに活用している

  「電動化、ハイブリッドユニットは現在、全体の15%。ここをどんどん増やさないと、仕事が減っていく」―。トヨタ自動車北海道の今井光明常務取締役(59)は危機感を募らせる。トヨタグループが2035年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガスの排出ゼロ)達成を目標にする中、主力はまだまだガソリン車向け。「きょうよりもあした、あしたよりもあさって。改善を積み重ね、競争力を高める」。30年間にわたり培った地道な努力の継続が基盤となる。

       ◇

   1992年6月に経営管理部企画課に異動。「会議のルールを決めたり、竣工(しゅんこう)式の準備をしたり、何でも屋」として同年10月の操業開始など体制の構築に汗を流した。ラインの生産や進行の管理、物流ルートなども立案。愛知県のトヨタ本体に製品を運ぶ物流は太平洋側ルートが基本だが、台風や雪害を想定して日本海側の緊急ルートを確保するなど、車両工場は絶対に止めない決意で成長曲線を描いた。

   アルミホイール、自動変速機(AT)、トランスファーの生産急拡大に「ライン能力月2万台に対し、4万台生産したこともある。時間で稼いだ」。2000年3月から約1年間、2直2交代の勤務形態を3直2交代で対応。「生産付加が低いうちに先行生産する」異例の決断も経験した。

   無駄を徹底して省くトヨタ生産方式(TPS)にあって、工場内に生産したATがずらりと並ぶ「さながらキャベツ畑」をつくり出し、「柔軟な生産対応がわれわれの強み。この時の頑張りがノウハウとなり、受け継がれ、今も生きている」と強調する。

   社内で「カイゼン」が浸透するよう、トヨタ自動車を模倣して創意工夫提案制度も展開。従業員はほぼ月1件ずつのペースで提案し、「事務の『こう変えたらやりやすい』とか、どんな小さなことでも挙げてもらい、ポイントを付け、賞金を出す」。従業員全員に応募の権利があり、成果とやる気を生み出している。競争力を高める固定費削減、原価低減もアイデア豊か。工具と形が似ているとの理由で、石炭ストーブ用のデレッキ棒(火かき棒)を代用したことも。「特注で作っていたが『その辺で買えばいい』と。付加価値の生まないところは少しでも減らした」と懐かしむ。

   工場内のからくり創造塾では、さまざまな仕掛けを展開しながらゴールを目指すピタゴラスイッチのような構造物がずらり。実際に生産ラインなどで使用し「設備のサイクルタイムを0・5秒縮めるだけで、全体で見れば大きな改善。簡単なからくりは自分たちで直せ、動力も電気を使わないので二酸化炭素も削減できる」。トヨタものづくりの伝統が至る所で息づく。

       ◇

   2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、ラインの稼働停止を余儀なくされた日もあったが、休みにしかできない「カイゼン」、さらなる効率化に力を入れるなど、雇用を維持しながら常に反転攻勢。今年度もコロナ禍で部品生産は当初計画を下回るが、一時的に生産能力を超えるラインもある。

   昨年4月には社内で新組織「アドバンスドBCD企画推進室」を立ち上げ、ビジネスクリエーション、CN、デジタルトランスフォーメーションを推進。道内企業との連携で事業の創出を目指すなど新たな一歩を踏み出し、「待っていても仕事は来ない。われわれとしてもしっかり努力し、仕事を任せてもらえる会社になり、地域に貢献していく」と決意する。

 (終わり)

   ※金子勝俊が担当しました。「第2部」は10月に掲載予定です。

過去30日間の紙面が閲覧可能です。