7月中旬、安平町の早来地区に建設される学校の裏に広がる丘の現地見学会が開かれた。足元はでこぼこ。野木の枝やとげのある太い茎は伸び放題。参加した児童や教職員、地域住民ら18人はそれらを避けながら、高い所まで登った。児童たちは冒険を楽しむように坂をよじ登ったり川に足を入れたりしてはしゃぎ、「楽しい」と声を弾ませていた。
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早来地区に来春開校する小中一貫の義務教育学校「早来学園」の裏は緑の自然に囲まれ、丘の上からは早来の街並み一帯を見渡すことができる。付近には川も流れており、夏の夜にはホタルも見られるという。子どもたちが自然と触れ合いながら育つには、適した環境と言えそうだ。
しかし、現時点でこの丘に正式な名称はなく、安全に利用できるように管理する人もいない。さらに整備に費やす町の予算も、学校建設費に大きな金額を計上しているため当然ない。
そこで立ち上がったのが町民主体で活動している「みんなの学校をつくる会」だった。丘をどのように使いたいか、どんな活用方法があるのかを考えるワークショップを、昨年11月から毎月1回、町内で開催。教職員、住民だけでなく、地域の子どもたちも交えて意見交換を重ねた。
「そんなことできるの?」「誰が維持管理するの?」「お金は大丈夫なの?」「でも、滑り台は欲しいよね」―。年代の垣根を越えたやり取りから「(早来学園の)子どもたちだけでなく、地域住民も丘を使うことができないか」という声も出てきた。代表を務める石川英俊さん(32)は「子どもたちから、わくわく感だけでなく、利便性や現実的なコストを踏まえた声があって驚きました」と誰もが真剣に考えてきた話し合いの場を振り返る。
約8カ月にわたる活動で出たさまざまな意見を集約し、さらに町民対象アンケートも行って内容を精査。7月20日、町教育委員会に丘の整備に関する要望書を提出した。町民の思いが詰まった要望書を受け取り、種田直章教育長は「これまで真剣に話し合ってきたことが、議事録から読み取れる」と重みをかみしめた。
「要望してもかなわない可能性はある。でも、何もしなければ、新しい学校への町民の思いは何もなかったことになる」―。たとえ実現は難しくても、自分たちの学びやは自分たちでつくる。そんな強い意志が、同会の取り組みから伝わってきた。