ウィーン世紀末の巨匠たち(上) 絵画に工芸的な装飾

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2022年8月18日
グスタフ・クリムト「人生は戦いなり(黄金の騎士)」

  苫小牧市美術博物館では28日まで、特別展「芸術の都ウィーンとデザインの潮流」が開かれている。19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したウィーン分離派の作品や芸術運動の影響を受けてデザインされた工芸品などを展示している。担当学芸員がウィーンの巨匠と呼ばれる画家グスタフ・クリムトとエゴン・シーレの作品について解説する。

       ◇

   華やかな装飾性と世紀末的な官能性に基づく独自の作風を確立したウィーン世紀末の巨匠グスタフ・クリムト。本作は、1903年に画家の回顧展として開催された第18回ウィーン分離派展の出品作となる。

   ひし形模様が施されたかぶととよろいを身にまとう騎士は、やりを手に黒い馬にまたがり、左下に小さく描かれた蛇と対峙(たいじ)している。装飾的な手綱は、なぜか騎士の左手に到達する前に途絶えており、馬を操るのにそれが無用であることを暗示している。騎士のかかとのすぐ下の灰色の木の幹には、悪魔をほうふつとさせる人物像の影がのぞいており、点描風に描かれた木の葉に散りばめられた金や、咲き誇る花々と相まって幻想性を高めている。

   騎士のかぶととやりの柄や手綱の紋様、画面の最下部に施されたびょうぶ絵をほうふつとさせる帯状の金などは、絵画表現に工芸的な装飾性を導入する試みともいえ、日本美術からの影響も指摘できる。

   伝統に則した絵画表現により、若くして名声を得ていたクリムトだが、20世紀に入ると、黄金を用いた工芸的かつ平面的な装飾性の強い独自の作風へと転換し、世間の批判や無理解と戦うことになった。果たして本作は、権威的な芸術に対抗し、時代に即した新たな表現を求める戦いに挑む画家自身の決意表明としても読み取れる。絵画的な描写と工芸の装飾性が一体となった本作は、両者の境界を取り払うことで生活に芸術を取り入れようとした芸術運動の潮流をたどる本展のテーマを象徴する作品ともいえる。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)

過去30日間の紙面が閲覧可能です。