東日本大震災の東北被災地を巡る3泊4日の苫小牧市こども研修の期間中、小学5年~中学3年のメンバー35人は研修先や宿泊先で出会った人たちと積極的に、幾度も「よろしくお願いします」「ありがとうございました」とあいさつを交わした。
こども研修は震災学習はもちろん、集団生活を通じて協調性や自主性を育むことが目的の一つ。当初は集合時間に遅れたり、単独行動をしたりする児童生徒も散見されたが、研修が進むにつれてだんだん少なくなっていった。市から研修事業を受託したトートー事務機(苫小牧)の富田雄貴団長(35)は研修終了後、子どもたちに「団結力が生まれた。語り部ガイドなどから聴いた貴重な話を自らに置き換え、防災や日常生活に生かしてほしい」と期待を込めた。
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「11年前のあの日、まさか被災し一生、家に帰れなくなるとは思っていなかった。その日を境に会えなくなった人もいる」。三陸鉄道(岩手県宮古市)の語り部ガイドで、小学6年の時に被災した千代川らんさん(23)は震災当日の記憶をたどりながら「雪が降る肌寒い日で電気も水も不通となり、皆で温め合って生活した」と述べた。
宮古観光文化交流協会の「学ぶ防災ガイド」の元田久美子さん(65)は、他人を思いやって生きることの大切さを強調。「自分の命や家族の命、友達の命を粗末にしてはいけない」と訴えた。
2人は東北地方で言い伝えられている、津波が来たらてんでばらばら1人で高台に逃げる「津波てんでんこ」(いのちてんでんこ)についても紹介。普段から家族間はもちろん、友人らと積極的にあいさつし、コミュニケーションを密にし災害時にどう逃げるかを話し合う重要性を説いた。
津波が来てもすぐに逃げられるよう、学校でも靴を靴箱に入れるときにかかとをそろえるといった「日常時のしつけが防災教育になる」(元田さん)とも語った。
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今回、112人の応募者の中から抽選で選ばれた35人の研修メンバーは、苫小牧市内の児童生徒という共通点はあるものの、学校も学年も異なる。6月に初めて行われた事前研修では、こわばった表情で緊張しながら1人ずつ自己紹介をしていたのが印象的だった。
子どもたちは研修期間中、苫小牧の代表として常にいろんな人に見られていることを意識して行動するよう求められた。常に7人、1グループで動いたが当初はだらけたり、きちんと話を聞かないメンバーもおり、引率スタッフに怒られる場面もしばしば。輪を乱す下級生に上級生が悩む姿もあった。
それでも研修が進むにつれ、子どもたちは責任感を持って動くようになっていった。班長や副班長は「ちゃんと並んで待って」「室内では帽子を取って」「静かに」と班の仲間を毅然(きぜん)と注意。一人一人がルールを守り、てきぱきと行動し始めた。学習意識も変化。訪問先で熱心にメモを取り、1日の終わりには忘れないよう感想をノートにつづり、事後研修に備えていた。
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「人と関わるのがあまり好きではなく、自分から行動することもなかなかできなかったが研修を通じて率先して動けるようになった」と東中1年の飛岡さくらさん(13)。美園小6年の花田翔君(11)は「震災前と後とでこんなにもまちの様子が違うとは驚いた」と研修を振り返る。
災害での被害を最小限に抑えるためのキーワードとして自分の身を守る「自助」、地域住民が助け合う「共助」、市など公的機関による「公助」の連携が叫ばれる中、子どもたちは研修を通し、仲間と協力し、助け合う大切さを学んだようだった。
(報道部・樋口葵)