チップといったらヒメマスのこと。地元の人ならすぐにピンときますが、ビジターセンターで働いていると、チップという名がそれほど浸透していないことが分かります。観光客の方から「商店のメニューや幟(のぼり)に書いてある、あのチップって何のことですか?」と何度も質問を受けてきたからです。
チップとはアイヌ語「カパチェッポ(平たい魚の意味)」に由来します。海へ下りず一生を湖で過ごすベニザケの湖沼残留型で、支笏湖には1894年、阿寒湖から卵が移植されました。1909年に「ヒメマス」と命名され、現在は支笏湖漁業協同組合がふ化増殖事業を行っています。6月から8月が解禁期間。今が、釣り上げられたばかりの新鮮なチップを賞味できる特別な期間です。
チップはサケの中でも人気のベニザケが起源だけに味は保証付き。個人的には刺し身やすしでいただくのが好きで、口に含んだとき、程よい脂とともに爽やかな香りが口中に広がるのがたまりません。
「川魚は苦手」とおっしゃる方に一言。支笏湖チップは他の川魚とは違い格別の味わいがあると評判です。チップの主な餌はミジンコなどの動物性プランクトンです。支笏湖は動物性プランクトンの餌である植物プランクトンが少ないので、決して餌が豊富な湖とは言えません。しかし、チップと餌が競合するワカサギなどが生息していないので、チップは十分に餌を取ることができ、臭みの原因となる水生昆虫を口にすることが少ないと言われています。一度、試してみてください。
刺し身やすしだけではなく焼きや天ぷら、フライも美味です。この時期に、縁あって支笏湖にお越しの方にはぜひ、「支笏湖チップ」を堪能していただきたいです。併せて、おいしいチップを育む支笏湖の自然の豊かさがいつまでも続くよう、自然保護の大切さにも心を寄せていただけたらと思います。
(支笏湖ビジターセンター自然解説員 吉田香織)