【3】加速する高齢化 地域包括ケアシステム構築に課題 施設整備追い付かず

  • 市政に問う 2022苫小牧市長選, 特集
  • 2022年6月8日
高齢者福祉センターのカラオケ教室を楽しむ市民。高齢者が生き生きと暮らせる地域づくりが求められる

  道内の自治体の中で比較的「若いまち」と言われてきた苫小牧市も、高齢化が急激に進んでいる。人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は2002年9月末の15・8%から、今年5月末時点で29・96%と倍増した。市の推計によれば、20年後にピークを迎え、34%を超える見込みだ。

   こうした中で急がれているのが、地域包括ケアシステムの推進だ。介護や医療が必要になっても、住み慣れた地域で最期まで暮らせるよう住まい、医療、介護、生活支援などを一体的に提供する仕組み。市内では10年ほど前からシステムの構築が進められてきた。

   しかし、このシステムは、高齢化の進展に追い付いていない側面も多く抱える。その一つが住まいに関わるもので、特に日常生活に不安を覚えたり、介護が欠かせなくなったりした高齢者が入居できる施設の確保が喫緊の課題だ。

   市は、高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画を策定し、計画的に高齢者の入居施設の整備を進めてきた。だが、それを上回るスピードでニーズが拡大。昨年12月末時点で特別養護老人ホームの待機者は185人に上る。小規模な地域密着型介護老人福祉施設や、認知症高齢者を受け入れるグループホームを加えると、延べ300人以上が施設に入りたくても、できない状況になっている。

   現行の同計画(21~23年度)では、特養など施設の定員を約100人分増やすことを盛り込んでいる。市介護福祉課の担当者は「施設整備は重要課題。だが、ニーズを大きく超えて造ってしまうと、今度は施設の維持が難しくなるという経営的問題も出かねない」とし、「バランスの見極めが非常に難しいところだ」と悩む。

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   地域包括ケアシステムを構成する在宅介護サービス提供事業者を取り巻く環境も厳しい。同課の調べによると、20年4月から今年2月末までに訪問介護や通所介護、居宅介護支援などを手掛ける事業所17カ所が事業を廃止し、5カ所が休止した。主な理由は、人員の確保が困難になったからだという。短期間で20カ所を超える事業所の休廃止は、市内でこれまでに例がなく、担当者は「在宅高齢者への影響が心配される」と顔を曇らせた。

   グループホームの経営など高齢者福祉に長く携わってきた60代の女性は「人員不足は何年も前から言われてきた課題。にもかかわらず、いまだ解決できていないのが現実だ。今後ますます増える高齢者を支える力が、本当にこのまちにあるのか」と疑問視する。

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   12日告示の苫小牧市長選に出馬し、5選を目指す岩倉博文市長は選挙公約で「苫小牧版地域包括ケアシステムの深化」を重要施策に位置付けている。だが、入居施設の確保や関係事業所の経営的問題を含め、課題は山積しているのが実態だ。訪問看護師として日々、自宅暮らしの高齢市民をサポートする女性(37)は「現行システムだけでは、高齢の人々の生活を支え切れなくなっている」と指摘する。

   個々の事情やニーズに応じた介護、医療、福祉のサービスを提供するきめ細かさがまだまだ欠けている―と強調。「関係組織の縦割りをなくし、市民の力も十分に取り込んだ重層的なシステムを一刻も早く実現させるべきだ」と訴える。

 (姉歯百合子)

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