「道徳は、自分自身の品性や品格といった人格を高める。人間の基盤をつくる上で大切なものだ」と力説する。約40年にわたり小中学校や行政で教育に携わりながら、モラロジー道徳教育財団(本部・千葉県柏市)の講師を務め、教師や保護者を対象に道徳教育の必要性を訴え続けた。
小学校教員だった叔父と叔母の影響を受け、室蘭栄高校を卒業後、教師を目指して北海道学芸大学(現北海道教育大)へ進学。1961年、室蘭市鶴ケ崎中で教師生活をスタートさせ、壮瞥町や登別市の小中学校に勤めた。43歳のとき、当時勤務していた登別市若草小の校長に勧められ、道教委指導主事の試験を受けた。合格し、53歳まで留萌や胆振の教育局や道教委スポーツ保健体育科で指導班主査、主幹を担った。
「退職前に学校に戻りたい」と、94年に現場へ復帰。校長として苫小牧市糸井小へ赴任し、定年まで同校や登別市の小学校で働いた。学校現場と道教委の両方に携わり、「同じ教育の仕事でも、子どもたちに教える学校と、教員らを相手にする道教委では全く環境が違った」と振り返る。道教委では、道議会での答弁書作りやマスコミへの対応も経験した。「学校現場に長年いると、考え方や物の見方が学校という枠から抜け出せなくなる。いい経験になった」と語る。
道徳教育の必要性に目覚めたのは、小学校教諭1級普通免許状(当時)取得のため、学校に勤務しながら27歳で入学した玉川大学文学部教育学科の通信教育課程で学んでいたときだった。当時の学長から宗教教育と道徳教育に関する講話を聞き、感銘を受けた。以降、モラロジー研究所(現モラロジー道徳教育財団)主催の「教育者研究会」に参加し、道徳教育と人格形成の深い関わりを学んだ。
「学校で道徳に力を入れたい」と思い、76年、登別市若草小で道徳教育の実践に踏み出した。家庭の生活スタイルが人間をつくる―と考え、保護者を招いた道徳学習会を開催。授業でも尊敬、親切、感謝、恩など道徳の大切さを子どもたちに伝えた。
退職後も積極的に活動。琉球大学で非常勤講師を務めたほか、2007年から20年まで同財団の社会教育講師として指導に当たった。現在も月に1度、札幌市へ赴き、同財団教育相談員を務めている。
「道徳は他の科目と違い、理解できたからと言って、すぐに実践できるものではない。人には好き嫌いがあり、損得勘定もある」と、教える難しさも口にする。学校の道徳教育は「教材と方法と教師の人格の三つがそろわなければならない」と話し、「命ある限り教員の人格の質を高め、道徳の発展に力を注ぎたい」と力を込めた。
(樋口葵)
細川 勝紀(ほそかわ・かつのり) 1940(昭和15)年4月、室蘭市生まれ。高校時代は体操部に所属し、高体連で全道大会3位の成績を収めた。尺八の師範免許も持つ。胆振道徳教育研究会の会長や胆振教育研究所の所長も務めた。苫小牧市木場町在住。