(アイヌ刀・中) 魔を払う道具や宝物として

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2022年5月24日
タンネプイコロ

  エムシは刀身を和人から交易などで入手します。この時にほとんどの刀身は刃をつぶしたり、そもそも刃が付いていない刀身となります。これは松前藩などの和人側がアイヌに武器となり得る刀が渡らないようにしたためです。また、アイヌ刀の刀身の多くがさびているのは、刃が光っていると魔物がその光を見て体をかわしてしまうとか、さびた刀で切られた魔物は復活できないからだとされています。日本刀では刀身と柄は目釘(めくぎ)という小さい竹の棒で固定しますが、アイヌ刀は柄(つか)に差し込むだけです。そのため強く打ち込んだりすることができず、戦闘には耐えられない作りになっています。エムシは魔を払う力を持つものとして、祭りの際の踊りや不慮の事故があった際に神々を叱り付けるために使われました。

   一方、タンネプイコロ・タクネプイコロはエムシと異なり、踊りなどで使われることはなく、宝物として認識されていました。普段は家の中に飾っており、祭りなどの際に神にささげるものとして用いたり、結納の際の持参品としてやりとりされていました。装飾が多い、もしくは美しいイコロは結納品として重宝されたようです。また、アイヌ同士で争いがあった際の賠償品として用いられることもありました。

   (苫小牧市美術博物館学芸員 岩波連)

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