エゾシカ激増 そのもたらすもの 植生や生態系の保存が必要

  • 支笏湖日記, 特集
  • 2022年4月8日
広葉樹の樹皮を食べるエゾシカたち=3月1日撮影

  写真は3月上旬、支笏湖温泉街近くの国道沿いでの一コマです。今年は例年にない大雪だったため、深雪に弱い彼らが雪の浅いこの場所に出てきたものと思われます。ここでは多くの広葉樹が樹皮を食べられています。樹木の場合、エゾシカに根元の一周を「樹皮はぎ」されると、その個体は枯れてしまいます。

   北海道では、この樹皮はぎにより巨額の林業被害が発生しています。また、樹木が枯れて地表面を支える根張りが無くなると、傾斜地では土砂崩れが生じ、さらには森が飲み水を作る機能も低下します。しかし、実際には翌年の芽生えやその他の低木、野草(彼らが嫌いな種類以外)も食べられ、これらを必要とする動物たちもいなくなります。

   例えば、春植物のエゾエンゴサクが姿を消せば、その蜜を利用するマルハナバチも姿を消します。ササや低木などが無くなると、そこを繁殖場所とする野鳥もすめなくなります。生態系に関わる全ての生物へとその影響は波及します。

   エゾシカがここまで増えてしまったのは、明治期に人の手によりエゾオオカミが絶滅させられたことが原因の一つです。つまり、エゾシカの捕食者がいなくなったからなのです。同様のことが起きたアメリカのイエローストーン国立公園では、その解決策としてオオカミを移入しました。しかし、人口密度の高い北海道で同様の解決策は取りにくいでしょう。そうなると、人間がオオカミの代わりにエゾシカの数を減らす必要があるのです。

   現在、国、道、各自治体レベルで、科学的調査を行ったうえで、捕獲などの実行段階に進んでいます。われわれにできることは、それを理解し支援することが一つです。また身近では、エゾシカ肉のジビエ食材としての活用があります。これは、狩猟者の方々を援助することにつながります。さらに、筆者は上記の内容に加えて、エゾシカが入れない柵で囲われたサンクチュアリをつくり、現生の植生や生態系を保存することが必要だと考えています。

  (支笏湖ビジターセンター自然解説員 榊原茂樹)

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