「次なる市長選にチャレンジします」―。苫小牧市長選(6月12日告示、同19日投開票)をめぐり、現職の岩倉博文氏(72)は19日、市内のホテルで開かれた連合後援会主催の集いで5選に向け出馬を表明した。衆院議員時代を含む22年間の政治生活の「集大成」に位置付けて、新型コロナウイルス対策、脱炭素社会の構築、人口減少対策などに取り組む姿勢を見せた。その会場から約150メートル先で、旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」(表町)の廃虚化が進む。
岩倉氏は過去4回の選挙で中心市街地活性化の重要性を訴えてきた。だが、旧エガオが2014年8月に閉鎖してもう約7年半が過ぎ、問題は悪化の一途だ。
旧エガオはもともと民間の商業施設。権利関係が複雑だったため、市が15年8月ごろ、「ビルの廃虚化を防ぐ」公共的立場から権利を集約して一時的な受け皿になる方針を決め、地権者らとの交渉に動いた。
全29法人・個人の権利者のうち、土地の一部を所有する不動産会社、大東開発(苫小牧市)の協力のみ得られず、訴訟に発展した。大東側は市が自社の土地を不法占有していると提訴。昨年5月に市は全面敗訴が確定し、1000万円近くを大東側に支払った。今後も建物が残る限り、年間120万円余の土地使用料の支払いは避けられなくなった。
市は全権利の集約後、ビル解体を条件に再開発事業者に無償譲渡する方針を崩さず、大東側との交渉を重ねる。公金のつぎ込みに、無償譲渡に応じた権利者や市議会、市民からの視線は厳しさを増す一方で、市は新たな動きを見せる。
岩倉氏は2月の市議会定例会の市政方針演説で、22年度中に「駅周辺再整備に向けたビジョンの策定」を掲げ、旧エガオ問題について「一日も早い解決に向け、今後も粘り強く取り組む」と誓った。その後の論戦で複数の市議が公費解体を求める声に、「重く受け止める」と答弁し、一貫して否定してきた公費解体にも態度を軟化させつつある。
出馬表明後、報道陣の取材に応じた岩倉氏は「苫小牧で生まれ、育ち、市長を経験してきた中で、もっといいまちをつくりたいと思ったのが一番だ」と決断理由を明かし、今回の出馬が「最後」と強調した。旧エガオ問題を含む中心市街地活性化を選挙公約に盛り込む考えも示し、「急がなければいけない」と覚悟をにじませた。
駅前で小売店を営む男性(71)は「長引けば、長引くほど店の我慢も難しくなる」と悲痛な声を上げ、岩倉氏の「集大成」に注目する。「市が解体してくれれば民間投資の誘発になり、少しでも希望の明かりになるのではないか」と期待を込めた。
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苫小牧市長選に初めて名乗りを上げた岩倉博文氏の「最後」の公約に市民の注目が集まる。対立候補の姿はまだ見えないが、2期連続の無投票や多選への批判も予想され、野党側も重い腰を上げ始めた。3カ月後に迫った市長選をめぐる動きを報告する。