1980年代に駆け出し記者として地域経済を担当していた頃の話。取材先の企業幹部と、「今の日本ならどこかの国を丸ごと買えるのでは」「欧州の城を買うのはどうか」といったことが話題になったことがある。それほど日本に好景気の風が吹いていた。
当時、苫小牧市に本拠地のあった道央市民生協の幹部から米国の牧場を買い上げ、飼育牛に適切な飼料を与えて良質な牛肉を生産、輸入するとの構想を聞かされた。あまりにも大きな構想に驚き、文字にはならなかったが、夢のある計画がごく普通に語られるよき時代であった。
1990年初めにバブル崩壊が起こり、これを境に日本経済は一変する。企業は債権処理に追われ、大型倒産が続出。景気が落ち込む中、国も有効な経済対策を打ち出せないできた。低迷期を脱却しても企業は、雇用形態の変更による人件費の抑制などを続け、「失われた30年」とも言われている。
今、4月以降の賃金を労使で話し合う春闘が佳境を迎えている。先行する自動車総連はトヨタ、日産、ホンダがすでに満額回答するなど順調にスタート。大手の動向を見ながら今後、地域の労使交渉も進む見込みだ。
岸田政権が訴える「新しい資本主義」の実現や働き方改革がどこまで反映されるか注目だが、コロナ禍の厳しい春闘だけに企業の実情も重視しなければならないだろう。春闘が企業の将来を見据え、労使が経営を考える機会となれば、と思う。(教)