背丈より高くなった雪山の間の細い道を、譲り合って歩く。今冬の札幌は豪雪地帯のようだ。積もっている雪まで舞い上げる地吹雪ともなると、ホワイトアウトのよう。
そんな季節。チカホ(札幌駅前通地下歩行空間)で店開きしていた古本屋で、立石泰則さんのノンフィクション「魔術師」(小学館)を見つけた。プロ野球の弱小球団だった西鉄ライオンズ(現西武ライオンズ)、大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)を率い、日本一に導いた知将・三原脩さんの生涯を描いた傑作だ。
三原さんの目にかなう「一流選手」とは、投手なら20勝、打者なら3割を打つ選手のこと。1960年の大洋には一人もいない。ならば「2割6、7分の打者、10勝クラスの投手が、ここぞというときに踏ん張る。つまり、二流選手が一流の働きをする」という「超二流」選手を生かす野球で万年最下位から日本一を奪取。「三原魔術」と呼ばれ、スポーツ関係者としては異例の菊池寛賞まで受賞した。
三原さんが球団社長を務めた日本ハムファイターズの監督に、新庄剛志さんが就任。「強いだけでは何の意味もない。プロ野球はいったい誰のためにあるのか」を問い続けた三原さん同様、従来の考えにとらわれない野球を目指しているように映る。ファイターズもまた「一流」選手は少なく、「新庄魔術」への期待は高まる。本拠地を札幌ドームとするラストシーズン。間もなく球春がやって来る。(広)