(3) 「沙流川アート館」の日々 こだまみわこ(1963~)

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2022年2月12日
こだまみわこ作品展示風景(第2展示室)

  北見市に生まれたこだまみわこ(1963~)は、91年より平取町に移り住み、旧川向小学校「沙流川アート館」の運営と、この場所での制作を続けている。「沙流川アート館」は共同アトリエ、展示、絵画教室が行われる地域のアートセンタ―で、市街地から沙流川を上流に進み、競走馬の牧場が広がる小高い所に立地する。こだまにとって、ここは生活の場であり、仕事場であり、そして創造の源になる場所だ。

   本展で紹介している作品は、すべて「沙流川アート館」の日々をつづるものである。勢いよく、それでいて入念に彫り上げられた木版の彫り跡が、モノクロームの世界に際立ち、力強くおおらかな印象を与える。俯瞰(ふかん)的な視点で描かれた風景には、日々の暮らし、人との出会い、野生動物たちの気配、鳥たちの戯れ、草花の芽吹きの一つ一つが丁寧に織り込まれる。山々と空が画面をぐるりと取り囲む、魚眼レンズでのぞき込んだような景色に、見る者は作中の森に誘われるようだ。その森を歩けば、かつて学校だったことが思い出される遊具や、野生動物たちの姿、そして、時々現れる住民の姿に出会うことができるだろう。

   新作《またいつか森になる》は、日々少しずつ変化を続けてきた森において、こだまが今この場所で感じる景色を描いた作品だ。人々がこの地を訪れるずっと前、ここには森を守る番人が住んでいたのかもしれない。作中の森にちりばめられた小さな物語からは、こだまの暮らしとこの場所へのひたむきなまなざしが感じられる。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 立石絵梨子)

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