胆振管内伊達市出身の佐藤祐治(1975~)は、写真表現を通して風景の美しさを構成する被写体と、それをまなざす主体との関係性を探求する写真家だ。眼前の被写体を直接的に切り取る、いわば“視覚の写し鏡”ともいえる「写真」という媒体と、その対象となる風景に関連したリサーチを下敷きにしたテキストを添えた実験的な作品を制作し、写真自体とその表現の在り方の問い直しを図っている。
近年は「雨乞い/龍神伝説」といった土着の信仰にまつわるテーマを、写真シリーズ「見えない水が立つ」により探求している。本展参加に当たり佐藤は、「かつてイワシ漁でにぎわった、前浜付近に打ち上がっていた観音像が、当時の大網元の自邸の庭に龍神と共にまつられていた」という苫小牧出身の義理の父からの聞き取りを基に、幾度となく市内浜町を取材に訪れた。本展では同地の記憶に着想を得て撮影された作品が同シリーズの中の1点として組み込まれている。
このほか、モノクロ写真をAI(人工知能)によって色付けするシリーズ「愛のカラー写真」も導入部にて紹介。自らが撮影したモノクロ写真のみならず、自身で収集したアルバムに納められた撮影者不詳の写真さえも織り交ぜられたその作品群は、架空の年代設定と相まって現実と空想の淡いが曖昧なものとなる。AIという最新技術によって記憶の平均値・理想値を導き出し着色されたはずの写真が郷愁を誘うのは、おそらくそれが人々の集合的な記憶を結晶化した表象であるからにほかならない。
(苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)