(1)クジラを糸口に 是恒さくら(1986~) (動画あり)

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  • 2022年2月7日

  苫小牧市美術博物館は3月13日まで、胆振・日高ゆかりの現代美術を紹介する企画展「NITTAN ART FILE 4:土地の記憶~結晶化する表象」を開催中だ。同館の担当学芸員が、4人の出展作家とその作品について4回にわたって解説する。

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   クジラとそれにまつわる逸話を糸口に制作活動を展開している是恒さくら(1986~)は、アラスカや東北・北海道各地の捕鯨、狩猟・漁労文化、海の精神文化についてフィールドワークと採話を行い、リトルプレス(小冊子)や刺しゅう、造形作品として発表している。

   本展開催に際して、かつて勇払や苫小牧、白老といった一帯の浜が、イワシ漁でにぎわった「タルマイ浜」と呼ばれていたことを知った是恒は、漁にまつわる記憶とイワシを連れてくる存在としてあがめられていたクジラに関するリサーチを進めてきた。

   6000年前の縄文海進の時代に泳いでいたと推測される、市内勇払地区で発見されたクジラの骨(当館所蔵)と向き合い、そこから立ち上がる風景を想像した是恒は、漁場に住んでいた現地の人々の言葉などに着想を得て、物語を紡ぐかのように、その生き物を捕獲していた当時の土地の記憶を豊かな想像力と共に作品へと昇華させてゆく。

   新作シリーズ〈鯨寄る浜〉では、鯨骨に光を当てた際に生じる影をなぞった輪郭の枠内に説話的なイメージが刺しゅうと描画の組み合わせにより展開する。漁場の人々、クジラやカモメ、キツネといったモチーフが形成するその表象は、かつての浜の記憶を喚起するハマナスなどの植物と共に構成されており、透過性の高い布の効果と相まって、鯨骨から立ち上がるかのごとく宙を揺らいでいる。過ぎし日にここにあった風景と、今ここにある風景とのあわいを織るかのように浮遊する作品群は、果たして浜の記憶の物語が結晶化した表象といえるだろう。

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   午前9時半~午後5時。月曜休館。観覧料は一般300円、高校・大学生200円、中学生以下無料。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)

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