リングプルに指をかけ、僕は恐る恐る缶を開けた。表書きには100グラムあたりのエネルギーが、247キロカロリーと書いてある。ざっとおにぎり2個分か…。なかなかの栄養成分だ。心の準備が整う前に、缶の裏側にくっついたイナゴの足が僕に先制キックを浴びせてきた。僕は爪ようじでイナゴを刺して、つくだ煮になったそいつを口に運んだ。足が口の中で障るが、味はいい。
そう遠くない未来、肉がなくなり米が食べられない、そんな時代が確実にやってくる。人口が増え、食料がなくなり、人々は次の食べ物に手を伸ばすことになる。手を伸ばす次の食べ物として、僕も注目しているのが「昆虫食」だ。
もともと人間は、多くの犠牲を払い、食べるものを見つけ出してきた。狩りを行い、穀物を育てて腹を満たした。あらゆる知恵を生かして食糧にしてきた。
しかし、それらの食材も、かつては誰も食べたことのないもの。見た目にもおぞましいようなものでも、「一口食べること」で新しい食材を次々と手に入れた。今、食べ物として見ていない「昆虫」だって、メリットがあれば、「一口食べること」で何の抵抗もなく、食糧として食べられるのではないかと思うのだ。
実は「昆虫食」には今の世界が困っていることを解決してしまう大きな可能性がある。まず、昆虫食は低脂肪・高タンパク質・ビタミン・ミネラルが豊富で牛肉や鶏肉にも匹敵する栄養素がある。さらに、昆虫を生産するのに、水や土地をほとんど必要とせず、室内生産ができて環境に左右されない。その上、食糧として成長するまでに時間がかからないという利点がある。このままいけば、2050年には、50億人が食糧不足になるというデータがある。昆虫食が世界に出回れば、昆虫自給率が上がり、7人に1人、5秒に1人が餓死している人々を、死から救い出すこともできるのだ。
だから「みなさん、虫を食べましょう」と言われても、昆虫は気持ち悪くて怖い、嫌だというだろう。見た目は大事だ。そんな人たちのために「循環型のフードリサイクル」を目標に掲げ、開発をしている企業もあり、すでに昆虫の形や、食感が分からないようになった昆虫食が商品化されている。甘くておいしいクッキーやパンに加工され、スナック菓子のように手軽に食べられるものもあったりする。
飽くなき人間の探究心と食の歴史、食糧危機と最先端企業、そしてSDGs。栄養があり、少ない土地や水があれば、大量生産できる昆虫。餌代などの金もかからない昆虫を素材とした「昆虫食」が、世の中に出回ることは、デメリットは少なくメリットしかない。
「カイコハナサナギ」という昆虫には、やる気や元気が出ないなどの気持ちのストレスや、悩みを改善できる成分があることが、研究により明らかになっている。やる気が出ないと感じている皆さん。最近イライラして怒りやすいあなた。「昆虫食」を一口食べてみませんか?その症状が改善されるかもしれませんよ。「一口食べたら、私がずっと広がるかも。二口食べたら、みんながちょっと変わるかも。三口食べたら、未来がきっと変わるかも。」これは、ある企業のキャッチコピーだ。僕はこの言葉に、無限の可能性を感じる。