(12)白老町 文化観光の推進 関心と熱意高まる 芸術の力で地域活性化

  • 2021この一年, 特集
  • 2021年12月28日
「白老文化芸術共創」と銘打ち、地域の魅力をアートで発信するプロジェクトが展開された

  芸術で表現した地域の多様な文化を観光のまちづくりに生かす―。そうした試みが今年、白老町で動きだした。戸田安彦町長を名誉会長に町議会やアイヌ協会、商工会、観光協会、町内会連合会などの代表らが6月に実行委員会(熊谷威二会長)を設立。文化庁の日本博予算を活用して今秋、「白老文化芸術共創」と銘打った事業を繰り広げた。”文化観光”をキーワードに地元主要団体がタッグを組んで臨んだのは、初めてのことだった。

   プロジェクトは、白老のアイヌ文化、自然、歴史をモチーフに生み出した芸術家の現代アートの作品展示と、地域の魅力を発信するインターネットラジオ番組の制作を軸に展開。10月には文化政策の専門家の講演や町民討論会も開いた。コロナ禍の逆風に遭いながらの事業となったものの、これまで聞き慣れない文化観光という単語がまちに飛び交うようになり、アートの力を地域活性化につなげようとする機運がにわかに広がった。

   文化観光は土地で受け継がれた伝統の営みや、それを表現した芸術を観光資源にすることを意味する言葉だ。官民協働で盛大に芸術祭を催す自治体も増え、香川県直島や小豆島など瀬戸内の島々が3年に一度開く「瀬戸内国際芸術祭」にはコロナ前の実績で100万人が押し寄せ、130億円の経済効果を生んでいる。元気な島へ移住する人が相次ぎ、子どもの減少で閉校した学校を再開させたケースもある。

   過疎に苦しんでいた地域の成功事例に白老町の各界が目を向け始めたのは、急速な人口減という郷土の深刻な事情が背景にある。幸い白老には飛生芸術祭など、アーティストによる文化芸術活動の下地が築かれている。それを生かしてまちの魅力を高め、移住定住も促したいとの思いが実行委メンバーの胸中にある。

   プロジェクトと連動し町商工会は11月、「文化芸術と観光施策」を町に要望。12月の町議会定例会では、議員の一般質問に戸田町長が推進に前向きな姿勢を示すなど、まちづくりをけん引する人々の間に文化観光への関心と熱意が高まる。

   国は昨年、文化観光推進法を作り、支援の仕組みを整えた。これを追い風に実行委は来年度も事業の継続を狙う。今のところ民間主体の活動だが、関係者から上がる「官民協働で」との声に町役場がどう動くか。その点も注目される。(下川原毅)

  (終わり)

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