8月に苫小牧市内で開かれた全国高校選抜アイスホッケー大会で発生した新型コロナウイルスの大規模クラスター(感染者集団)について、感染者が出た市外の学校に何度か電話取材をする機会があった。
当事者の話を聞くのは取材の基本だが、面識のない相手への取材を電話で済ますのは正直、苦手だ。明るい話題ではなく、新聞社を名乗れば、警戒されることもしばしば。実際、今回はかなり苦戦した。
電話口でクラスターの深刻な状況を踏まえ、「事実を正確に伝え、再発防止につなげるため」と粘り強く取材協力をお願いした。しかし、学校側は「生徒を守るため」とかたくなに拒否の姿勢を崩さない。そんなやりとりが続くと次第に、学校側の考えを否定できない気持ちが湧いてくる。SNS(インターネット交流サイト)の普及で、世間の激しい中傷に遭うリスクは高いよな―と共感しそうにもなった。
一方で、生徒を守るために公表を選ぶ学校もあった。白樺学園高校(十勝管内芽室町)は感染者が出た際、当事者に趣旨を説明し、了解を得た上で名前や性別は伏せ、学校ホームページ(HP)で公表。電話すると、校長が自ら対応してくれた。学校はお盆休みだったが校長1人だけ、HPの感染者情報更新のため出勤していた。「社会的な責任で公表している。大会運営に対する学校側の思いも知ってほしかった」。感染者の公表と、取材に応じた理由をそう語った。
匿名と公表―。その時々で「正しさ」は変わるような気がし、もやもやは尽きない。真摯(しんし)に話を聞く意義を痛感している。電話口の声から、拒む人の人柄を感じる場面もあった。取材先と向き合い、聞いたから明らかになる事実もある。そう信じ、地道な取材を続けたい。 (河村俊之)