JR苫小牧駅南口の旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」をめぐり、土地の一部を所有する不動産会社大東開発(苫小牧市)がビル所有者の苫小牧市に損害賠償を求めた訴訟は5月28日、札幌高裁が市の全面敗訴の判決を出し、確定した。市は賠償金支払いのため市費の投入も決めたが、駅前再整備に向け旧エガオの全ての権利を集約する方針は崩していない。残る唯一の権利者である同社との交渉は判決後に再開されたが、解決への道筋は見えない。旧エガオビルは閉鎖から8度目の年越しを迎える。
旧エガオが運営会社の経営難で2014年8月に閉鎖され、市は「ビルの廃虚化を防ぐ」など公共的見地から関わった。土地とビルの権利を市に集約後、優れた再整備計画を提案した事業者にビル解体を条件に無償譲渡する考えだったが、同社は市が土地を不法占有しているとして未払い賃料の支払いを求め、19年1月に提訴した。
20年2月の一審判決は同社の主張を全面的に認め、市はこれを不服として控訴。同7月から始まった控訴審で札幌高裁は和解を勧告し、今年3月まで計8回の協議を重ねた。
老舗パン菓子製造会社三星の社長を兼ねる大東開発会長が「三星発祥の地を残したい」と主張していることから、市は出店可能な市有地との交換や大東開発所有の土地購入といった譲歩案を示したが、折り合いが付かなかった。結局、控訴審判決も市の主張を退け、732万円の賠償金支払いを命じた。
裁判長は判決の言い渡し後、「和解による抜本的な解決が望ましいことは双方の認識が一致しており、地域住民の願いでもある」と諭した。市は判決を受け入れ、幹部が同社との交渉を再開している。11月には裁判経過を含め詳報を市公式ホームページで公開。すでに無償譲渡に応じた元権利者に対しても担当職員が出向き、改めて事情の説明に歩いている。
苫小牧駅南口は今、市主催のイベント「とまイルスクエア2021」が開かれ、華やかなイルミネーションで彩られている。しかしふと視線を移すと、暗闇の中、廃虚化したエガオビルが亡霊のように浮かび上がる。
「早期解決のためと頼まれたから、寄付に応じた」。元地権者の一人は当時の心情を明かす。「どうやって解決するのか」―。現状を見守るしかないもどかしさに、ため息を漏らした。(河村俊之)