10年ほど前、苫小牧市日新町に水産物の卸会社「ノースオールコーポレーション」を立ち上げた髙橋克典さん(52)。新型コロナウイルス下で飲食業界が大打撃を受け、取引が激減した。それでも落ち込むことなく、安心して外食を楽しめる環境を自らつくろうと、光触媒コーティングの施工事業に乗り出した。「今が頑張り時。おいしい物を食べ、みんなで笑顔を交わせるようになる日は、きっと戻る」と力を込める。
埼玉県蕨市の出身。建築関係の仕事に就くなどして同県内に長く暮らしてきたが、39歳の時、「誰も自分のことを知らない土地で暮らしてみたい」と思い立ち、茨城県の大洗港から苫小牧港行きのフェリーに乗り込んだ。仕事も住む所も決まっていない、無謀な旅立ち。だが、苫小牧の街並みを見て「ここでなら今までとは違う、新しい生活が送れるかもしれない」と不思議と胸が踊り、このまちに住むことを決めた。
1年ほどたった頃、市内で居酒屋を営む辻野貴彦さん(48)と出会った。今まで味わうことのなかった北海道のおいしい食べ物に感激していることを辻野さんに話すと、「北海道の海産物を道外に卸す仕事を始めたらどうか」と言われ、一念発起。準備期間を経て2012年12月、辻野さんと共に会社を設立した。
右も左も分からない中での会社経営だったが、とにかく品質と鮮度にはこだわり抜いた。その徹底ぶりが高く評価され、高級料亭とも取引するように。全国の物産展や地元苫小牧の祭りなどへの出店事業も順調に進み、忙しいながらも充実した日々を送ってきた。
しかし昨年春、事態は一変した。コロナ禍で卸先の飲食店は営業を自粛し、取引がストップ。物産展や祭りといったイベントも皆無となった。
「事態がよくなるのをただ待っていても仕方がない」。辻野さんと何度も話し合いを重ね、菌やウイルスを光エネルギーで分解する物質を、壁やテーブルなどに吹き付ける光触媒コーティング技術を知った。すぐに2人で研修を受け、今年2月、施工代理店の認定資格を取得。4月、施工事業をスタートした。
これまでに市内外の飲食店や自動車販売店、運送業、保険会社、フェリー会社などからの依頼を受け、店内や事務所、トレーラーの運転席で施工。地域貢献として、公園やコミュニティセンターでも無償で施工してきた。
感染者数の減少で、飲食業界も徐々に動きを取り戻しつつあるが、以前のように人々が気軽に外食を楽しめるようになるまで、もう少し時間がかかるとみている。「今できることは、安心して過ごせる空間づくり。微力だけど、みんなが笑える社会づくりに貢献したい」と語る。
(姉歯百合子)
髙橋 克典(たかはし・かつのり) 1969年5月、埼玉県生まれ。旅行好きで、各地のおいしいものと出合うことが何よりの楽しみ。現在、沖縄県での新規事業も構想中。苫小牧市本幸町在住。