アイヌの女性が身に着けるタマサイと呼ばれる首飾りは、連ねたガラス玉に金属製の飾り板(シトキ)をつないだものが一般的である。APENUY(炎を意味するアイヌ語)と名付けられた下倉洋之さん=彫金作家=の作品は、彼が制作した銀製のシトキに増井敏雄さん=蜻蛉(とんぼ)玉作家=の玉をつないだ共作となっている。両者をつなぐテーマは「火」である。
多用される黒玉は火山由来の黒曜石の玲瓏(れいろう)であり、バーナーワークで作られた蜻蛉玉をつなぐ位置にも強いこだわりを見せる。シトキ部分に鮮やかに浮かぶ緋色の文様は、銅に火を入れて描いたものを接着している。シトキも一つ一つの玉も作家の手と火の働きによって唯一無二の個性が与えられているが、それでいてなお全体が一つの作品としての調和を保っている。「つなぐ」という行為の奥深さを感じさせる作品である。
下倉さんは、初期の作品である熊の手の指輪に導かれるように阿寒湖畔に行き、多くの出会いがあって、今ではそこに工房を構えている。
(国立アイヌ民族博物館研究員・関口由彦)
民族共生象徴空間(ウポポイ)中核施設・国立アイヌ民族博物館(白老町)の特別展「ビーズ アイヌモシリから世界へ」は12月5日まで開催。観覧料(ウポポイ入場料は別途必要)は大人300円、高校生200円、中学生以下は無料。休館は毎週月曜日。