月の光に身を躍らせながら、今まさに木から飛び立った瞬間のシマフクロウが描かれている。獲物を見つけたところだろうか。木版画ならではの荒々しくも繊細な表現に、野生の力が感じられる一作である。
作者の手島圭三郎は、木版画による絵本『しまふくろうのみずうみ』(1981年、福武書店)で絵本作家として出発し、今年デビュー40周年となったことで、複数の美術館等で個展が開催され、話題を集めた。
本作で描かれる月の夜に飛び立つシマフクロウの姿は、絵本『しまふくろうとふゆのつき』(1993年、偕成社)などにも登場する。本書の後書きで、作者は絶滅の危機にひんするシマフクロウを、「原始の象徴」と述べる。そして、作品を表現するときには、シマフクロウの力強い声を聞いた時に感じられる神秘的で不思議な気持ち―心の奥に眠っている、動物の本能が呼び掛けられるような気持ち―を見る人に伝えたいと語る。
厳しい北の大地に生きる生き物たちの営みは、人の手が届き難い神秘的な世界へといざなうようである。
(苫小牧市美術博物館学芸員 立石絵梨子)