突然だった。立てないほどの大きな揺れ。部屋は真っ暗。北海道全域停電となった大地震。また同じ揺れが来たら、きっと家は崩れ、死ぬかもしれない。私は恐怖で動けなかった。
でも、父は違った。すぐに外に出て、ライトで家の損傷を確認。朝になると、太陽光発電で家電を動かし、食料や情報を確保した。
あの時からずっと疑問だった。想定外の初めての出来事に遭遇した時、動ける人と動けない人の差は何だろう。父には知識・経験・行動力の他に何かがあった。私に無い何かが。
本の中でも大変な事が起こる。2人の息子が火事の中にいて1人しか助ける時間がない。悪い弟の方を助けた父親を、私はひどいと思った。父親は「生きるという貴い意味を学ぶ時間がもう少し必要なのは弟だ」という理由で選んだ。私は兄がかわいそうだと思ったけど、誰を選んでも全員が苦しいと気付き、パニックの中で父親が瞬時に思ったことは何かを考えた。きっとそれは「未来」ではないだろうか。父親は悪事をたくさん働いた弟を許し、弟の「今」ではなく「未来」を信じたのだと思う。
あの時の父もそうだったのかもしれない。私は恐怖で今しか見えなかった。でも、父は家族の「未来」を信じていた。未来が見えると、今やるべきことがわかるから動けた。そう思った瞬間、私の中の疑問がスッと消えた。
でも、どうすれば未来は見えるのだろうか。この前、図工の時間にやじろべえを作った。揺れても落ちない姿が、この本の父親や私の父の心に似ている。仮に左右のおもりが心で、支点を強い心だとすると、それぞれの支点は、「許す心」が本の中の父親。「家族を守る心」が私の父。でも私は「楽しさ」だったから地震の時崩れた。そして、やじろべえは傾くと、それを引っ張る重力が働いている。心ならこれが未来だと私は思う。つまり、強い心でバランスを保てれば未来は見えてくるのではないだろうか。どんな時でも未来を見るには、状況によって替えられるたくさんの支点が必要だ。どうすれば支点を増やせるだろう。
この本の中に「苦しいことが何もない人生なんぞ、無意味だよ」とある。苦しい経験の意味とはなんだろう。母は私に「今やっている勉強は将来使うためじゃないよ。脳をたくさん使って、いろいろなことに対応できるようになるためだよ」とよく言う。それなら、苦しい経験が、全く別の苦しい経験に役立つこともあるのだろうか。私は、初めてのことが苦手だ。この前受けた英検の面接では、手足が震えた。初めての場所で、初対面の人と英語で会話。緊張で、簡単な単語も忘れた。調べてみると、新しいことに挑戦すると脳が活性化され、難しいことに挑戦し、悩み、考えて乗り越えると脳が育ち、創造力や判断力が鍛えられるらしい。私ははっとした。その力を支点にできれば想定外の出来事で動ける人にきっとなれる。私の苦しみの価値が変わった。今の行動が未来の私を救うと信じて挑戦する。いつか父のように大切な人を救える人になるために。