BMXレーシング決勝が行われた7月30日、男子優勝のニック・キンマン選手(オランダ)が金メダルを首に掛け、医療室近くを偶然歩いていた。「メダルに触らせて」。冗談半分で声を掛けると「もちろん」と快諾の返答。思わず「リアリー?」とたじろいだが、せっかくの機会なので好意に甘えることにした。
当然、五輪メダルに触れるのは初めて。ほんのり冷たくて重量以上の重みを感じた。レーシング女子3位のメレル・スマルダー選手(オランダ)の銅メダルも見せてもらったが、金と差異がないほど立派に輝いていた。
大会期間中こそぴりぴりとした空気を漂わせていた選手たちだが、ひとたび勝負事が終われば気さくで陽気な人たちばかりだった。新型コロナウイルスの影響で無観客開催となった今五輪。外部との接触を厳しく制限された中で、同じバブル方式に居る私たち医療スタッフとの交流を楽しみにしてくれていたのかもしれない。
2019年10月のプレ大会(東京)参加時にインスタグラムを通じて知り合ったフランス女子代表のアクセル・エティエンヌ選手とも対面。大会ごとに髪形を変える奇抜な人で、今回は編み上げた長髪を青や紫色で染めていた。「髪形、変えたんだね」「そうなの。ありがとう」。
日本人選手との交流もあった。BMXレーシングの予選前日に医務室に訪れたのは、女子の控えだった丹野夏波選手。練習中に腰を痛めたといい、テーピングやマッサージを施した。
年齢別世界選手権3連覇など輝かしい実績を誇る彼女だが、東京五輪の本代表の座は逃していた。どこか元気のない様子。自転車談議に花を咲かせながら、「次いつチャンスが来るか分からない。3年後のパリ五輪に向けて頑張ろうよ」と伝えると笑顔でうなずいてくれた。
19年W杯で総合優勝し、今五輪でメダル獲得が期待されたフリースタイル男子日本代表の中村輪夢選手は惜しくも5位。「会場のジャンプ台が他大会よりも低くて、うまく高さを出せなかった」と話していた。
普段はテレビ画面越しでしか出会うことのない人たちとの交流は、貴重な経験になった。