東京五輪医療スタッフ体験記~元自転車競技選手木賊弘明さん(6)炎天下での救護活動 熱中症に細心の注意

熱中症の診断を行うエコー検査の様子

  選手や大会運営スタッフにとって大敵なのは、新型コロナウイルスだけではない。連日の真夏日や猛暑日を記録した炎天下での救護活動。熱中症予防には細心の注意を払った。

   ありがたいことにスタッフには毎日、会場入場時に水が入った500ミリリットルのペットボトル2本とパックタイプのスポーツ飲料水1個、さらに塩分補給のタブレット、あめが配布される。医務室は経口補水液なども充実。ミールセンターと呼ばれる食堂にはウオーターサーバーが設置され、誰でも自由に水分調達ができた。

   各部屋の空調設備は万全で、屋内での作業はいつも快適に行うことができた。

   屋外設置のレース会場では、救護班ごとに飲料水をクーラーボックスに入れて持ち歩いた。レーシングはコーナー付近がアスファルト舗装されているため体感温度は増す。フリースタイルは、コースや関係者席など建造物の間に挟まれた一段低い所に待機場所があり空気の通りが悪く、常に熱気がこもった。

   さらに、公式練習時に設置されていた待機場所の日傘が「テレビ中継の見栄えが悪い」と取り除かれ、私たちは突如として炎天下にさらされた。各種救護用具も同様の状態になり、爆発する危険性のあった酸素ボンベは専用ケースに袋詰めした氷を大量に入れ、温度が上がらないよう配慮する手間が加わった。

   暑さには自信のある方だったが、さすがに今回はこたえた。毎日3リットル以上の水分を補給、仲間の看護師が持参していた冷感スプレーにも助けられながら何とか乗り切った。

   会場には重度の熱中症患者の体を瞬時に冷やす「アイスバス」と呼ばれる水温18度以下に設定された浴室が設置された他、超音波検査診断装置(エコー)で腹部の静脈の状態から熱中症を判断する態勢などが整っていた。

   ただ、選手たちは競技だけではなく対策も一流。レース後に保冷剤などが入った「冷却ベスト」を着て体温を下げるよう努める人が多く、重度の熱中症患者は出なかった。使用機会が訪れなかったアイスバスはその後、札幌市内で行われたマラソン会場に送られたそうだ。

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