医療スタッフの朝は早い。毎日午前7時半から始まる研修を目がけてBMX会場の有明アーバンスポーツパーク=江東区=に向かう。30分ほどの座学や実地訓練、当日の役割分担などを確認する会議を経て、午前8時45分ごろには競技場での業務が始まる。
医師と看護師をベースにした4人一組の救護班を編成し、レーシングは6カ所、フリースタイル・パークは3カ所にスタンバイ。競技中の転倒や接触で負傷した選手たちの救護に当たるのが使命だ。作業療法士の私は医師の指示を受けて負傷箇所のテーピング、固定といった処置を行う他、搬送器具を使った選手のコース外搬送にも従事した。
最初の稼働は世界的なニュースになった7月26日の事故だった。BMXレーシングの公式練習中、試走選手と国際審判員がコース上で接触した。私は事故現場から数メートルの所を巡回中だった。「危ない!」という日本語やさまざまな言語の大声が飛び交った直後、「ドーン」とすさまじい衝撃音。搬送器具と処置道具の入ったバッグを持ち、現場に駆け寄った。
選手は何とか自力で立ち上がったが、審判員は倒れたまま手足をばたつかせて混乱している様子。駆け付けた脳神経外科医が脳振とうの疑いがあると判断し、落ち着くのを待ってから6人がかりで医務室に運んだ。
現場実績豊富で次のパリ五輪(2024年)でも要職を任される予定の人だったという。なぜコース内に入ったのかと厳しい指摘は多かったが、本人に事故当時の記憶がないなど熱中症で意識がもうろうとしていた可能性が高かった。
幸いにもその後は、BMXフリースタイル・パークも含めて自分の担当範囲では大きな事故やけがは起きなかった。
コース内業務が終わると、新型コロナウイルス対策として医務室などの活動場所や使用器具の消毒、ミーティング。一日の業務は午後4時頃に完結する。そこから30分ほどかけてホテルへと戻り、衣類に菌が付着していることも考えてすぐさま洗濯。ホテル内にコインランドリーが完備されていたが、感染症対策のため自室の浴室で手洗いした。
食事や翌日の準備を済ませて他競技のテレビ観戦を楽しむつもりだったが、気付けば眠りに就くハードな毎日だった。