東京五輪医療スタッフ体験記~元自転車競技選手木賊弘明さん(2)安心安全な大会運営へ

PCR検査キットの回収を行う一室の入り口

  今回の五輪は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、選手ら大会関係者が外部との接触を断つ「バブル方式」下で行われた。PCR検査は毎朝ホテルの自室で実施。検体(唾液)は競技会場内の回収所に届ける。

   結果は五輪・パラリンピック組織委員会に集約される仕組みで個別の通知はなし。最初こそ不安を覚えたが、上京初日に滞在中に必要な食料を買いそろえるなど、バブル方式外へ出る機会を極力減らしていたので自信はあった。

   ただ、宿泊先と競技会場間の電車移動には注意を払った。同じくPCR検査で陰性が証明された人だけが存在する空間とは異なり、当然車内には出勤する会社員など一般利用者が多く居る。自宅が近いボランティアスタッフの中には徒歩や自転車で来場する人も。完全なバブル方式とは言えない状態にあったのは確かだ。

   会場には万が一感染者が出た場合に備え、ウイルスや細菌を外部に流出させないよう室内の気圧を低くした「陰圧室」が設置されていた。少なくとも私が携わった期間での稼働はなく、自身の無事も含めてひと安心した。

   会場内には数カ所に不織布マスクやゴム手袋が置かれ、自由に使用が可能。手袋は選手救護など行為ごとに欠かさず交換。マスクは多いときで1日10回以上は取り換えた。

   医療スタッフの中には新型コロナの最前線で働く看護師らが居て、感染症予防に対する意識はとりわけ高かった。雑談する中で意見が一致したのは目の保護。飛沫(ひまつ)感染などを防ぐため、肌に密着するゴーグルやフェースシールドの装着が重要だと再認識できた。

   マスクをせずに医務室を訪ねる外国人選手がちらほら。未着用の状態で手当てができない旨を伝え、着用を促すことも多かった。

   各競技のテレビ中継では運営スタッフが競技を終えた選手一人ひとりに手指消毒を促し、マスクを手渡す光景がよく映し出されていた。どんな規模の大会でも徹底できる感染症予防策だと思う。競技性に応じた対策はもちろん必要だが、基本的な部分の徹底こそが選手たちを感染症から守る、安心安全な大会運営に欠かせないことだと感じた。

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