6 山腹崩壊現場の今 ~被災地を歩いて~ 対策進むも道半ば 被災現場、防災学習に活用

  • 特集, 胆振東部地震から3年
  • 2021年9月13日
大規模な土砂崩れが発生した2018年9月当時の吉野地区=ドローン撮影
大規模な土砂崩れが発生した2018年9月当時の吉野地区=ドローン撮影
対策工事は終わったが、かつての景観はなくなった吉野地区=4日ドローン撮影
対策工事は終わったが、かつての景観はなくなった吉野地区=4日ドローン撮影
震災遺構として活用される日高幌内川周辺の被災現場=4日ドローン撮影
震災遺構として活用される日高幌内川周辺の被災現場=4日ドローン撮影
山の上から日高幌内川周辺の被災現場を見学する上厚真小の児童たち
山の上から日高幌内川周辺の被災現場を見学する上厚真小の児童たち
日高幌内川周辺の被災現場近くで進んでいる砂防工事現場=4日ドローン撮影
日高幌内川周辺の被災現場近くで進んでいる砂防工事現場=4日ドローン撮影

  2018年9月に発生した胆振東部地震の特徴的な被害でもある山腹崩壊。最も土砂崩れによる被害が大きかった厚真町では、対策工事を進めているが、治山の復旧状況はいまだ全体の3割ほどにとどまる。その傍ら、幌内地区の日高幌内川周辺など一部は震災遺構として残し、後世に語り継いでいく資源として活用する考えも示す。3年前の大地震で土砂崩れの影響が大きかった山腹崩壊の現場を歩いた。

   3年前の震災で19人が亡くなった吉野地区をはじめ、富里、高丘、幌内などの山で土砂崩れが発生。その後、緊急的な対策が必要な箇所からスピード感ある復旧工事が進められた。そのかいもあって、かつてあった被災家屋は雪崩のように崩れ落ちた大量の樹木と土砂とともに完全に撤去。2次災害を防ぐためのコンクリートくいが打たれた山はのり面を覆うように青々とした植物が生い茂る。発災当初から見ていた景色は大きく変わった。

   しかし、町が公表した道の事業と合わせた治山工事は148カ所を予定しているが、7月末時点で発注済みは93件で発注率にして62・8%。完了した箇所は49カ所で完成率は33・1%にとどまる。今月5日の記者会見で宮坂尚市朗町長は「堆積土砂が撤去され、崩壊対策も進み、安全は確保されたが、まだ当時をしのべる状況ではない。寂しい限り」と現状を説明。「震災前の姿を思い返すような景観づくりができれば」と今後の理想を語る。

  ×   ×

   その一方、町では被災した現場の一部を震災遺構として保存する動きも進めている。幌内地区にある日高幌内川の現場も「胆振東部地震を語る上で欠かせない場所」の一つとして、被災した当時の状況そのままにして公開。昨年からは町教育委員会が主催し、新たに町内の小中学校に勤務する教職員を対象に現地ツアーが行われているほか、小中学生が防災学習の一環として活用する。

   震災からちょうど3年がたった9月6日には、上厚真小学校の5年生児童20人が授業で現地を視察。険しい坂道を歩き、あちこちに倒れ掛かっている樹木、削り取られた山肌を目の当たりにした。現地を案内する町教委の担当者は「(日高幌内川周辺の被災現場は)防災教育の良い資源になる」と言い、今後も学習や学術研究などに役立ててもらうつもりだ。

   道の調べによると、地震で被害が大きかった厚真、安平、むかわの3町における山腹崩壊は約4300ヘクタール。このうち、厚真町の被害面積は約3200ヘクタールに及ぶが、いまだ手付かずの場所も残っており、激甚災害対策特別緊急事業として23年度まで集中的に工事を行い、24年度以降も継続して対策工事を実施していく。

   宮坂町長は「できるだけ早く景観を取り戻すことが、被災者の心を癒やすことにつながる」と話し、この先の復旧をさらに加速させていく考えだ。

  (随時掲載します)

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