「住まいの再建」完了 「記憶と記録」後世につなぐ 新型コロナ感染拡大に よる新たな課題も…

  • 特集, 胆振東部地震から3年
  • 2021年9月6日
さまざまな活動で子どもたちに震災の記憶を伝えているはやきた子ども園=安平町
さまざまな活動で子どもたちに震災の記憶を伝えているはやきた子ども園=安平町
この夏、ヒマワリの花が咲いた富里浄水場の前。復旧の様子がうかがえる=厚真町
この夏、ヒマワリの花が咲いた富里浄水場の前。復旧の様子がうかがえる=厚真町
参加者が健康体操を楽しみながら交流した巡回サロン=むかわ町
参加者が健康体操を楽しみながら交流した巡回サロン=むかわ町

  厚真町で最大震度7を観測するなど、道内全域を襲った2018年9月の胆振東部地震から6日で3年を迎えた。被害が大きかった厚真、安平、むかわの3町では、全ての被災者が新居での生活をスタートさせた。インフラ整備も今年度中におおむね完了するなど、復旧作業は加速している。一方で、新型コロナウイルス感染拡大による活性化事業、コミュニティーの停滞など、新たな課題も現れている。

   ■復旧はおおむね順調

   発災直後、3町合わせて最大570世帯、985人がプレハブ型応急仮設住宅やみなし仮設住宅、福祉仮設住宅などに入居を強いられたが、最優先課題だった「住まいの再建」はこの夏までに完了した。復旧作業も国の事業や山腹崩壊による被害が大きかった厚真町の山々の治山工事は23年度まで続く見通しだが、それ以外はおおむね順調に進んだ。

   土砂崩れが起きたのり面はコンクリートで補強し、緑化を図ったことにより震災以降むき出しになっていた山肌には植物が芽生えた。手を付けられずにいた宅地耐震化にも、ようやく着手できる予定。安平町では、校舎が震災後に使えなくなった早来中学校と、小学校を一体化させる新校舎の建設工事が7月から始まった。

   ■目に見えない「心の復興」

   目に見える復旧が進む一方、復興の面では被災者が感じる部分に温度差が生じている。特に仮設住宅から新居に移ったが、新しい地域になじめない高齢者層の孤立化を懸念する声が聞こえてくる。仮設住宅にいた頃にあった隣同士、団地単位の交流がなくなったほか、各町の社会福祉協議会などが行っているふれあいサロンの場もコロナ禍で中止が続き、復興から取り残されているという気持ちを拭えずにいる町民も少なくない。

   これを受けて厚真町は、人的交流が回復できるよう寄り添った取り組みを模索している。安平町は、8月までに町民へのアンケート調査を実施し、その結果を踏まえた対策をこれから講じていく。

   また、「心のケア」は引き続き取り組んでいかなければならない。激しい揺れを体験し、痛めた心を癒やすのは簡単ではないためで、むかわ町は、住民を見守る「ゲートキーパー」の養成講座を今後開講し、地域全体で町民を支える活動を推し進める。

   ■震災の記憶、後世に

   あの未曽有の大地震から3年が経過し、震災後に見られた景色は、めまぐるしく変わった。「もう3年」か「まだ3年」か、受け止め方はそれぞれだが、多くの住民が不安を口にするのが記憶の風化だ。3町は合同で昨年度までに、地震による被害状況や概要、発災後の歩みを一冊にまとめた記録誌を発刊した。今後は、震災の記録誌の作成、映像の保管、震災遺構としての自然・施設の活用など、各町が独自に後世につなげていく方法を模索する。5日に開かれた記者会見で、厚真町の宮坂尚市朗町長は「記憶と記録を整理し、爪痕を活用して次につないでいきたい。それが支援への恩返しになる」と力を込めた。

   3町共通の人口減少、約4300ヘクタールに及ぶ森林被害、まちなかのにぎわいなど、課題はまだまだ山積する。それでも、そこに住む人たちは懸命に前を向き、個人差はあれど着実に歩んでいる。それを強く感じる日になった。

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