厚真町表町の住宅地近くに広がる田んぼや畑を毎日のように訪れ、虫捕りをしたり、走り回ったりする斉藤花ちゃん(3)。生後1カ月半で胆振東部地震を「経験」したが、当然ながら地震の記憶はなく天真らんまん。毎日が「楽しい」と元気いっぱいで、父で町職員の烈さん(33)、母の直美さん(38)が笑顔で見守る。
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2018年7月に花ちゃんが生まれ、家族3人で幸せに過ごす中、9月6日に胆振東部地震が発生。烈さんは「大きい地震だけど大丈夫」と直美さん、花ちゃんを元気づけたが、自宅は停電や断水に見舞われた。烈さんは避難所の運営業務に専念することになり、直美さんと花ちゃんは実家などに一時避難したが、厚真でライフラインが復旧すると帰郷。友人がオムツやミルクを届けてくれるなど、周りの支えで思ったより大変な生活ではなかった。
花ちゃんも生まれてから1度しか病院にかからないほど健康に育ち、家の中で歌ったり、踊ったりと笑顔を振りまく。生野菜をつまみ食いするほどの野菜好きで、休日は知人の家庭菜園や農園で、ニンジンやトマトなどを収穫する。料理にも挑戦するようになった。リビングの片付けや皿洗いなど日頃のお手伝いも日課だ。花ちゃんの日常に地震の影響はなく、烈さんは「何でもやりたがる時期。夢中になれるものを探し、広い視野を持ってほしい」と願う。
20年6月には次女の咲ちゃん(1)も誕生し、町内でマイホームも新築中で、「私たち家族は幸いにも大きな被害はなく、地震以降も何一つ変化なく過ごせている。家族みんな厚真が好き」と強調する。その上で「被災者ではなく経験者として、しっかり伝える責任も感じている。子どもたちの興味を引き出す素材がたくさん詰まった厚真町で、家族みんなと生きていきたい」と話す。
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厚真、安平、むかわ各町は、胆振東部地震の記憶を子どもたちにどう伝え、ケアし、生かしていくか模索を続ける。
厚真町教育委員会は地震後、新たに赴任する教員を対象に、爪痕が残る被災現場を視察する機会を提供。被災当時から復旧への歩みを伝える取り組みに力を入れる。小中学校9年間の義務教育で地域について学ぶ「ふるさと教育」もカリキュラム化した。
子どもたちに対し、地震を「適時適切に題材として取り扱っていきたい」と説明する。今後は副読本の改訂を進めるほか、新設する役場庁舎の周辺再編に合わせ、現庁舎を歴史的建造物として残して写真など資料を展示できないか検討中。町教委は「被災を経験した町として、子どもたちに伝承するのはわれわれの責任」と話す。
むかわ町も地震があった9月6日の前後、学校で避難訓練などの防災学習を組み入れて記憶を継承している。長谷川孝雄教育長は「9月6日という日を大切にしたい。町教委として風化させないようにどうしていくか、簡単なようで難しい問題だが、知恵を絞って積み重ねていきたい」と力を込める。(終わり)
※この企画は胆振東部支局・石川鉄也、報道部・小笠原皓大、金子勝俊が担当しました。