安平町早来大町の認定こども園「はやきた子ども園」は、2018年9月に発生した胆振東部地震の記憶を後世に伝えるため、地震で斜めに傾いた木製のサイロを震災の遺構としてそのままの状態で保存し、室内をアトリエや被災資料の展示に活用する。園内で行っていた「お泊まり会」の真っただ中に震度6強の地震に襲われたという経験や、サイロの歴史などを伝えていく場所として整備。地震から3年を迎える6日、完成を祝うオープニングセレモニーを予定している。
3日午前、園庭で職員がサポートしながら園児が木を切ったり、くぎを打ったりし、サイロの中に設置するテーブルや棚を制作。約2時間で完成させると室内に設置し、額装した写真も取り付けた。
その中での一こま。福田剛園長が「3年前の地震、覚えてる?」と聞くと、園児は首を横に振り「だってまだ小さかったから」―。園長はそんな子どもたちに優しいまなざしを向けながら、写真を手に取り「これは地震があって、ボランティアが来てくれた時だよ」「地震で子ども園の中はこんな感じだったんだよ」と語り掛けた。
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18年9月6日、同園は園内でお泊まり会の最中だった。幸い園にいた当時の年長児や教職員にけがはなかったが、中止を余儀なくされ、子どもたちは「途中で終わった」と落胆した。しかし、1年後の19年9月に「お泊まり会の続きをしよう」と声を掛け、卒園して小学1年生になった児童を集めて再び開催。当時参加していたほとんどの子どもが参加し、最後は笑顔で終わった。
サイロはそうした園での被災体験や1年後に行われたお泊まり会の思い出を記録として残す場所にする。被災した当初はサイロの全面修復を検討したが、「災害遺構として残そう」と傾斜した形のまま保存。倒れないよう基礎部分を固めるなど補強し、わずかに傾いた状態のまま管理している。
普段は園児が出入りできる遊び場として利用できるようにし、園を訪れた人たちには外観も内部も震災の記録資料として見てもらえる施設にと考えている。福田園長は「おそらく今の子どもたちの中では、3年前にあった地震のことは風化している。当時のものを展示して紡いでいくことで、歴史を引き継いでいきたい。今この瞬間に地震があってもおかしくはないのだから」
(随時掲載します)
木製サイロ 高さ8メートル、内径3.6メートル。1931(昭和6)年に遠浅地区の牧場に建設された歴史的建造物で、全国でも珍しいとされていたことから、旧早来町が2004年に町有形文化財に指定した。その後、腐食や老朽化が進み、倒壊の可能性もあるとして文化財指定を解除した上で15年に一度は解体されたが、地域の酪農の歴史や文化を伝えるため、同園でサイロの古材を譲り受け、18年8月に建物を園庭に復元した。その約1カ月後の9月6日、震度6強を観測した胆振東部地震で基礎のコンクリートにひびが入り、南西方向へ傾いた状態になった。